8.刻む距離

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 参拝を済ませた後、引いたおみくじはどちらも大吉。珍しいこともあるものだと、二人で顔を見合わせてしまったのが何だか擽ったかった。 「いい年になるといいね。せっかく二人そろって大吉だったし」 「内容はちょっと微妙でしたけどね、俺のは」  だからというわけではないらしいが、静はそれを境内の木に結び付けていた。俺の方は……何となく置いて帰りたくなくて、ポケットに。 「それでも大吉は大吉だし、きっといいことあるよ」 「……だといいですけど」  相変わらず静は未開封の缶で指先を温めたり顔を温めたりしながら、目の前の景色を眺めている。「帰ろうか」と言えば「そうですね」と答えたくせに、なかなかそんな素振りは見せない。 (もしかして……まだ帰りたくない、とか……?)  そんなの、自分がそう思いたいだけだと自嘲しながら――ただじっと座ったまま、時折きゅっと肩を竦める静の姿を不思議に思ったりもする。  改めてマフラーを顔に密着させているのは、それだけ寒いからだろう。  にもかかわらず、静はいまだに立ち上がろうとすらしないのだ。  ……まさか本当に帰りたくないのだろうか。それとも、ただここにいたいだけ?  それは君一人でも?  あるいは俺と一緒だから?  それは半ば妄想だったけれど――。 「ねぇ静……これからまだ時間ある?」  気がつくと、俺はそう口にしていて、 「……年明けのバイト(シフト)は?」  それを誤魔化すように、とっさに問いを重ねた。
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