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「酔う?」
「……はい」
「そう、なの……?」
「多分……ですけど」
ぱちりと瞬き、ゆっくり顔を上げると、静はすでに正面を向いて座っていて、こちらからはもう後頭部しか見えなかった。
その様子からして、あまり顔を見られたくないのかもしれない。
だとしたらかえって見たい気もしたけれど……それこそそんな子供じみた真似するわけにはいかない。
(そう言えば……)
静の誕生日の日はともかく(あの日は量も飲んでいたし)、懇親会で彼が悪酔いした時も、確かにワインを口にしていたのではなかったか。そう、明日花も言っていたはず。
ただ、あれはさすがに体調のせいもあったというか、むしろそれが大半だったんじゃないかと今でも思うけど……。
でも、それももしかしたら、その両方が原因だったということだろうか。
そんなことを考えながらも、俺は手順通りに耐熱グラスを二つ、電子レンジの中に入れる。あとは熱くなりすぎない程度に温めれば完成だ。
(まぁ、そういうことなら仕方ないか……)
にわかには信じられないけれど、本人が言うならその可能性もあるのかもしれない。
俺は密やかに息をつき、レンジのパネルに表示されたカウントダウンを見るともなしに目で追った。
「……ビールか……」
ややして、音にならない程度で呟くと、
(あるにはあるけど……)
そこにふと、いたずらな悪魔が囁いてくる。
(ないって言ってみようかな)
そんな自分に、思わず破顔してしまった。
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