*9.君を抱いてはいけない

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 年が明けてからの2ヶ月は、本当にあっという間だった。学校が始まれば卒論の仕上げに追われ、2月の頭には――卒論が終わり次第――俺も春休みに入った。  そして3月、来週にはもう卒業式が控えている。  春休みの間に、サークル内の参加希望者のみで行われた最後の公演も無事終わり、正真正銘、今夜がサークルとしての最後の懇親会だ。懇親会と言うか、正しくは送別会。  この日ばかりは恒例とばかりに、会場は最初から部室棟前の広場、内容はバーベキューと決まっていた。  聞いていた集合時間は18時。  けれども、その頃にはすっかり準備も整っていて、四年生はただ着いた順番に各々好きなドリンクを持たされただけだった。三年生以下の部員が先に来て用意してくれたらしい。その中にはもちろん静も含まれていた。  初詣の日を堺に、俺と彼の関係にも変化が――なんてことはなく、相変わらず俺たちは、友人、または少しだけ親しい先輩後輩という立ち位置のまま、付かず離れずの距離を保っていた。  むしろ、より平穏な日々を送るようになったと言ってもいいかもしれない。  初詣の後に飲んだ時も、結局はちゃんと彼の希望通り二杯目以降はビールに切り替えてあげたし(そうしたら確かに静は酔わなかった……)、その際話した内容も、俺の今後や、静の今後など、それぞれのこれからの展望がメインだった。  彼が希望する研究室の話だとか、俺の今後の仕事の話だとか。  その延長で、アメリカ(向こう)に帰ったら一軒家を借りてルームシェアをしようと思ってるって口にしたら、それにはちょっと意外そうな顔をされたけど……。  でもまぁ、それくらい。  俺がちゃんと自分のペースを取り戻せたのも良かったんだろうと思う。だってそれに比例するように、静もまた以前のように食事や軽い宅飲みなら付き合ってくれるようになったから。  今にしてみれば、時折ひっかかっていたの彼への違和感も、要は俺が原因だったのではないかと思う。多分、俺自身、気づかないうちに妙な空気を出していたのだ。静はそれに影響されてしまった。  そこを改善したから、元通りの日々に戻れた。  ある意味何もない――何もないけど、何より尊い日々に。  ……それでいい。それが正解なのだ。俺は現状に満足している。  そう、信じて迎えた日のことだった。
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