199人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
(あの子……)
以前、明日花が教えてくれた下級生の女の子が、静の隣で笑っていた。
参加者が揃ったタイミングで、全員で円になり、次期部長、副部長に決まっている部員から、そして口下手な部長に続いて現副部長からもそれぞれ挨拶があった。それから皆で一斉に乾杯をする。
あちこちで紙コップや缶などをぶつける音が響き、次第に談笑する声も大きくなる。その間、例の子はずっと静の隣をキープしていた。
(女の子って、案外強いね)
莉那にしてもそうだけど……ふられた相手のことを、嫌うでもなく、忘れるでもなく、それどころかそのまま想い続けていたりする。
(……まぁ、あんまり人のことは言えないか)
俺は苦笑混じりに息をつくと、持っていた缶ビールに口をつけ、そのまま一気に中身を空にした。
* * *
広場のベンチに座って、すでに何本目か分からない缶を空にする。するとどこからともなく現れた下級生が、その空き缶を回収してくれる。と同時に、さっきまでは次の缶を渡してくれていたんだけど、今回差し出されたのは紙コップ。遅れてやってきた別の後輩の手には、ワインの瓶が握られていた。
「明日花さんからの差し入れです」
有無を言わせず、紙コップの中が赤い液体で満たされる。
視線を巡らせると、何人かの部員が同じ紙コップを持っていた。
「ありがとう」
「断られたら怒られるので……」
傾けていた緑色の瓶を戻すと、後輩は揶揄めかして笑いながら、次の部員のところへ歩いていった。
(ワインか……。――あ、静は?)
再度周囲を見渡すと、彼は部室棟の前の段差に座っていた。隣には同性の同級生が数人。例の下級生はもう傍にはいなかった。
ややして、そこに先ほどの後輩二人が寄っていく。俺にしたのと同様、空き缶を回収し、紙コップを渡し、そこに間髪入れずにワインを注いでいく。
(……まぁ、少しなら平気か)
俺は密やかに息をつく。その視界が、不意に陰った。
「院、許可もらえたんだってね」
「明日花」
空いていた隣にどかっと腰を下ろしたのは明日花だった。
明日香の手にも同じ紙コップが握られている。座った拍子に雫が跳ねたらしく、手に付いた赤い点をぺろりと舐めながら、彼女は笑った。
最初のコメントを投稿しよう!