*9.君を抱いてはいけない

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(あの子……)  以前、明日花が教えてくれた下級生の女の子が、静の隣で笑っていた。  参加者(メンバー)が揃ったタイミングで、全員で円になり、次期部長、副部長に決まっている部員から、そして口下手な部長に続いて現副部長(明日花)からもそれぞれ挨拶があった。それから皆で一斉に乾杯をする。  あちこちで紙コップや缶などをぶつける音が響き、次第に談笑する声も大きくなる。その間、例の子(彼女)はずっと静の隣をキープしていた。 (女の子って、案外強いね)  莉那にしてもそうだけど……ふられた相手のことを、嫌うでもなく、忘れるでもなく、それどころかそのまま想い続けていたりする。 (……まぁ、あんまり人のことは言えないか)  俺は苦笑混じりに息をつくと、持っていた缶ビールに口をつけ、そのまま一気に中身を空にした。  *  *  *  広場のベンチに座って、すでに何本目か分からない缶を空にする。するとどこからともなく現れた下級生が、その空き缶を回収してくれる。と同時に、さっきまでは次の缶を渡してくれていたんだけど、今回差し出されたのは紙コップ。遅れてやってきた別の後輩の手には、ワインの瓶が握られていた。 「明日花さんからの差し入れです」  有無を言わせず、紙コップの中が赤い液体で満たされる。  視線を巡らせると、何人かの部員が同じ紙コップ(もの)を持っていた。 「ありがとう」 「断られたら怒られるので……」  傾けていた緑色の瓶を戻すと、後輩は揶揄めかして笑いながら、次の部員のところへ歩いていった。 (ワインか……。――あ、静は?)  再度周囲を見渡すと、彼は部室棟の前の段差に座っていた。隣には同性の同級生が数人。例の下級生(彼女)はもう傍にはいなかった。  ややして、そこに先ほどの後輩二人が寄っていく。俺にしたのと同様、空き缶を回収し、紙コップを渡し、そこに間髪入れずにワインを注いでいく。 (……まぁ、少しなら平気か)  俺は密やかに息をつく。その視界が、不意に陰った。 「院、許可もらえたんだってね」 「明日花」  空いていた隣にどかっと腰を下ろしたのは明日花だった。  明日香の手にも同じ紙コップが握られている。座った拍子に雫が跳ねたらしく、手に付いた赤い点をぺろりと舐めながら、彼女は笑った。
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