200人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
「え……。あ、もしかして、あの時久々に会ったって言うのが……」
「……ん」
(それもてっきり女の子だと思ってた……っ)
ワイングラスを傾けながら、片手間のように肯定されて、俺は思わず額を押さえた。
そのまま誤魔化すように髪を掻き上げ、ついでにワインも飲んでみたけれど、思ったほど気持ちは落ち着いてくれない。
(そんな感じって……)
確かに静はあの時、「それって元恋人?」という俺の予想に、〝そんな感じです〟と答えていた。
だけど、そんな感じって……これをそんな感じって言われても……。
何か……。何か、それはちょっと違わないか……?!
事情を知った今なら、あの時の双方の反応も分かる気はするのだ。
でも、分かる気はしても、
「優しい人だったんですよ」
あの男が、静の筆おろしの相手だとか。
あの男が、君にそんな――どこか擽ったいような表情をさせる、大切な思い出の中の相手だとか。
そんなのはやっぱり納得がいかない。
大体、その再会は本当に偶然だったのだろうか? あの男に、他に意図はなかったのか。
(本当はバイトを変えたのだって……告白がどうとかより、彼の方が理由だったんじゃ……)
勝手な印象であるにもかかわらず、考え始めると止まらなくなってしまう。
面映ゆいような、それでいて穏やかに視線を落とす静の空気が、余計に俺をもどかしいような心地にさせる。
いつの間にか心臓も早鐘を打っていて、そのくせ頭の中だけは妙に冴えていた。
(っていうか……静は……? 静はもう……吹っ切れているんだよね?)
瞬間、〝未練〟という言葉が胸を過る。
今までそんなふうに感じたことは一度もなかったのに、不意に浮かんだその疑念はなかなか消えてはくれなくて、
「彼のこと……今でも好きなの?」
気がつくと俺はそう口にしていた。
――そんなこと、俺に訊く権利はないのに。
最初のコメントを投稿しよう!