8.刻む距離

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 *  *  *  31日(大晦日)の夜――。  日中降っていた雨も夕方にはすっかりあがり、日が暮れた頃には雲もすっかり晴れていた。澄んだ空気にたくさんの星が瞬いているのが見えて、今日の天気予報は当たりだったと内心ほっとした。  約束の時間が迫り、仕事など(片付けるべきこと)と出かける用意を済ませた俺は、愛車の後部座席にブルーグレーのチェスターコートと白いマフラーを投げ置き、急くような気持ちで静のバイト先(アリア)に向かった。  予定より少し早くついてしまったものの、ただ待つだけの時間もそれはそれで悪くなかった。  ややして出てきた静を助手席に乗せ、俺はそのまま最寄りの神社へと車を走らせた。  少し足を伸ばせば有名どころの神社もあったのに、あえてそこにしなかったのは少しでものんびりしたかったからだ。だってやっぱり、そういうところは人混みもすごいからね。  静も特に希望はないみたいだったし、むしろそれでと言ってくれたから、行き先を決めるのに時間はかからなかった。  小高い丘の上にあるそこは、本殿までは少し距離がある。駐車場を出ると、緩やかな坂道に続いて、石畳の階段を上っていかなければならない。  静と共に歩き出した俺は、軽く引っかけていただけのマフラーとコートの襟を整えながら、横を行く静の姿をちらりと見遣った。  アイボリーのニットに黒のダウンジャケット。見慣れたラフなジーンズ姿。この時期、彼の服にタートルネックが増えるのは、とにかく防寒のためだと聞いたことがある。夏でもホットコーヒーを飲むことがあるほど寒がりなところは、意外性があってちょっと可愛い。 (にしても……寒そうだな)  雨上がりの冷えた空気のせいもあるのだろうか。場所によってはいまだ小さな水溜りの残る砂利道を進みながら、時折強く吹きつける風に静の肩が竦められる。その両手はすっかりポケットの中だった。
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