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そんな思いで辛気臭くなって日曜の朝、俺はいつものように黒革のハンチングを被って散歩していると、「もしや木下さんじゃないですか?」と指呼の間から女に声をかけられた。
俺は誰だろうと思って振り向くと、若くて細身の女が小走りに駆けて来た。
「木下さんですね!」
「え、ええ・・・」と俺が答えると、女は言った。
「私、肉山(牛子)さんの同僚の野沢菜子と申します」
決して美人ではないが、物腰が上品だと俺は思って答えた。「はあ、そうですか」
「はい、私、肉山さんから色々木下さんのことを聞かされたり聞き出したりしまして日曜の朝に愛用の黒革のハンチングを被ってこの辺りを散歩される日課があることを知りましてここへ参ったのでございます」
「はあ、そうなんですか。そうすると、この俺に興味があるとか用があるとか、そういう訳ですか?」
「そうなんですの。私、会社の食堂で肉山さんと昼食を取ってましたら肉山さんが彼氏と別れたことを暴露して木下さんのことを文句を交えて何の彼のと申しましてね、それで私、木下さんに興味がわきまして勝手ながら相性がいいように思いまして」
「と仰いますと?」
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