信号から骨の豚の手を引いて

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信号から骨の豚の手を引いて

 初めて娘が何かを見たのは、十一月の昼下がりだった。  徒歩数十分ほどのスーパーからの買い物帰り。娘とその母と言える人が横断歩道で信号待ちをしているときのこと。 「おさとう」  娘は横断歩道の真ん中を真っ直ぐ指さした。  母は聞いていたのかどうか分からない。虚を見ながら、今夜の献立でも考えていたのだろう。 「おさとう」  娘は繰り返した。今度は聞こえた母は、 「何もないですよー」  青信号になったので、娘の手を引いて歩き出した。  娘の片手がガムテープなどが入った袋で塞がっていたので、この日は何もなかった。  ある日、また同じ横断歩道で信号待ちをしていたとき。 「ジャム」  娘はまた中央を示しながら言った。 「イチゴのジャム」 「何もありませんよー」  母は娘に寄り添うように答えた。  娘は翌朝からパンにはマーガリンしか塗らなくなった。
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