水の模様

「い、いっせんまん、ですか!？」
　あまりの驚きに僕は思わず声が上擦る。
「そうです。その金額が妥当だと思います」
　対して彼女は落ち着き払っていた。今日会ったばかりの彼女のことはまったく知らないが、冷徹な取立人が良く似合うと思った。
「ちょ、ちょっと待ってください、僕みたいな単なる貧乏絵描きにそんな金額は無茶苦茶ですよ！」
「さきほどあなたは金額は気にしないと言ったではありませんか」
「そ、それはこんな金額になるとは思わなかったからで……」
　しどろもどろに言い訳する僕を彼女は睨む。僕はどうしてこんなことになってしまったのか必死に考えるが分かる筈もない。
　そんな僕を、彼女は容赦なく追及する。
「往生際が悪いですね。早くあなたの絵を一千万円で買わせていただけませんか？」
　どうして彼女はこんなことを言っているのだろうか？