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第三話
「こっち!こっち!」袖を冬美に引っ張られて大型スーパーに連れていかれた。
それも入口近くにある宝くじ売り場だった。
「ええ!買わないよ。こんなん。当たらないよ」
どうしてもスクラッチを削れといってきかない。頑固な子供がごねているようだ。行き交う人がこっちを見る。
しょうがなく10枚買った。
「まった!これで削ってみて」
渡されたのはてんとう虫が浮き彫りになっているコイン。
え?は?はあ?えええ
本当に当たった!8枚が当たった。それも百万円と三十万円。合計七百三十万円だ。
呆然として動けない。
売り場のおばちゃんが何か言ってるみたいだけど聞く耳ない。
「……だからね。高額当選は銀行で変えてもらってよ。わかるかい。大丈夫?あんた学生?絶対変な使い方しちゃだめだよ。大金握ったら人が変わるんだから。彼女?ちゃんとみててあげてね。長くやってるけど、こんなに一度に当選した人初めてだよ。なんか怖いね」
「ええ。もちろん」
腕を組んで冬美はその足で銀行へ行こうと夢遊病者の俺を導いてくれた。
こんな大金手にした事ない俺は舞い上がった。
「ありがとう!冬美さん。冬美さんのお陰だよ。君、もしかして霊能力とかあるの?」
ふふふふ……何時と同じ笑い方。
「違うよ。湊君の普段の行いがいいからよ」
「確かに。なあ。ちょっと旨いの食べにいこうよ。奢るよ!」
冬美は組んでいた腕を振りほどいた。
「ダメ!!一円でも無駄使いしたら赦さないよ。お父さんとお母さんの顔、思い出して。妹ちゃんとかの顔も」
はっとした。
だよな。眼が覚めた。
だよな。
「ほら!夕暮れ。もうじき薄いエメラルドグリーンになってコバルトになるんだわ。ビルが邪魔ね。夕日が海に沈むの見るの好きなの。月とか星とか。遠い惑星に人間みたいな宇宙人いるかもよ」
「宇宙人紹介してくれる?」と訊くと
当たり前じゃないと笑った。
それから「いい?南を目指すのよ」
「なんで?」
「あら。だって北極より南極に行きたくない?」
「なんで?」
「何となくよ。南極には希望があるの。お願い。何かあったら南を目指して」
「ええ。何かって?何が起こるっての」
「何でもよ。何でもよ、少年よ南を目指して大志を抱け!」冬美はバスのロータリーで花壇の上に飛び乗り左手を腰に右手を指一本指し示して言い放った。
「あっちが南よ」
「なんで判るの?」
「そっかあ。判んないよね、普通。ふふふふ」
それから七月七日の俺の誕生日に時計をプレゼントされた。
「これねおじいちゃんの時計なの。形見よ。まだ、動くよ。ほら方位磁石の針も在るんだよ。南はこれで確認すること」
そんな大事なものをと断ろうとした。
「こんな………うっ」
僕の肩を掴んでジャンプした冬美の赤い唇が俺の唇に触れた。
「ふふふ。ははは。唇赤いぞ」
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