影の道

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影の道

 時を遡ること数時間前皆が寝静まったとき、一人歩み寄る影がいた。 影は灯籠の火によって近づけられなかったが、どういうわけか唯一屋敷の灯籠だけが火が消えていた。 この時不運が起きていて点いていたはずの火が突如の突風によって消えてしまったのだ。 本来なら風が吹かないというわけにはいかないがそよ風に近い風がいつも吹いていたので火は消えていなかった。 ソロリ……      ソロリ… 静かな足音を奏でながら勝手口を開けて屋敷の中に侵入し目的の人物を探し求めていた。 『ドコ……ドコ……ドコニイルノ………』 『ヤクソク…………ヤク……ソク……』とこの二言を繰り返し呟いていた。 そして、その声に気づいたのが一人の少年が静かに上半身を起こすのが影で見えていた。 その様子を見て広がる黒い影に中に潜み、影はユルリと動いた。  少しずつ近づくにつれ、影の気配に気づいたのか少年が立ち上がって静かに障子を開けて縁側に出てきた。 彼の姿を捉えて奴は影の中から少しだけ顔を出したら、自身の感覚に痺れるようなものがあった。 「誰です?」 彼の声を聞いて少し落ち込むけれど奴は誰かの影を感じとり、先程のように少しだけ念を送ってみせた。 『キミハ…ヨウチャン?ヤクソク…』って呟いたら少年は何処か信じがたいのか自分の前にいる不思議なものに注視した。 「君は誰ですっと言っているんです…質問を質問で返さないでください…」 何の躊躇いのない冷たく生意気な言葉に違和感なく話しかけてきたので奴は驚愕した。 『ヨウチャン…ヤサシイ……チガウ……』と言って目の前にいる少年を無視して影の中に潜ろうとしたときまた少年が答えた。 「“ヨウチャン”って誰です?」と同じように返ってきたので奴は潜るのを止めて影の中から少しだけ顔と体を出してみた。 その姿を見た途端今度は少年が驚く番になった。 「僕に声をかけた“影鬼”ですか?」と不意に村に伝わる鬼の名を言ったら、目の前にいる奴は図星なのか小さく震えた。 『………………』 何も答えない影鬼は目の前にいる少年は畳み掛けるように質問をしてきた。 「昼間に声をかけたものですか?」 昨夜疑問に思ったものを奴にぶつけてみたら、本人は首を横に振った。 (よく考えれば声違ったな…それにあの姿) 少年の前にいる奴の姿は何者も得ていないのか黒い姿をしていた。 一言で言えば影そのものだ。 そして、彼が聴いた声は何処か幼さが残るような表現で言えば可愛い声の持ち主だ。 それも………。 「何か困ってるです?」と質問を変えてみたら影鬼はそれも図星なのか、勢いよく頷いた。 『ヤクソク……ヨウチャン…』って言ってから自分がやって来た方角に顔を向けたら少年はその場所に酷く驚いていた。 そこは、影鬼が祀っていた神社があった。 「そこに何かあるのです?」 『ヤクソク……』ってだけで本当の理由を明かしてくれなかった。 でも、少年は“約束”という言葉に真摯に感じ、何としても目の前にいる影に成し遂げて貰いたいと思っていた。  何の揺らぎもなく操られるもなく少年は一度、部屋に入って何かしようとしたのか少しウロウロしたが、やはり心配されると感じたのか身支度だけ整えるもいつも持ち歩いてるメモ帳を持たず身軽でいようと両手を開けてそのまま部屋から出てきて目の前にいる影にこう言った。 「僕が何とかしてみせるです!」 この言葉に好機と感じた奴は、二つの笑みを浮かべた。 一つは喜びの笑み、そしてもう一つは影に似合う黒い笑みだった。
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