原子、少女、闇

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 少女は小さい頃から動物と一緒に居るのが好きだった。人間よりも。人間は闇を抱えるから。集落に居る時も、心から安息を得たことはない。 少女が腕を差し出すと、一羽の小鳥が丁度良い羽休め場を見つけたという様子で少女の腕に留まった。少女は小鳥に警戒させないように、そっと頭と羽を撫でてやる。 人間と違い動物達はとても素直だ。彼らには善も悪も光も闇もない。身体がそうあるべきままに、ただこうして無心に触れ合うだけで愛情を表現することが出来る。少女は動物が好きだ。 少女は味方の集落を皆殺しにした。それは闇を抱えるのは人間だけだから。動物たちを守るために、夜の内に集落の人間を皆殺しにした。 まずは親や弟が寝静まっている間に小刀で首を掻っ切り、殺した。次はこれまで命がけで狩りを共にした仲間を殺した。その次はよく木の実をくれた女の人。その次は集落の長老、弓の作り方を教えてくれた男の人、傷を負った時に看てくれた人...。そして最後には男女の契りを交わし、未来を約束した青年をも殺した。幸い少女は獲物を殺すのには慣れていたから、誰も起こすことなく、一夜にして集落の人間を全滅させることが出来た。たった1人、その少女を除いては。 人間の死体をあまり見たことがなかった少女は、人間は死ぬと動物と同じになるのだと気づいた。ただの肉塊。死んだ人間にはもう善も悪も光も闇もない。他の動物や虫達と同じように、ただ土に還るだけなのだ。 人間は死ぬ事でしか自然と調和できない事を、少女はその時知った。人間が死んで自然と同化してはじめて、この山から闇は消滅する。  だけど集落の人達を皆殺しにしても、魔物の出現は止まらなかった。つまりこの山に、まだ生き残りの人間が居るということだ。来る日も来る日も少女は魔物を狩り、生き残りの人間を探し続けた。 魔を生み出している生き残った人間......。 私?私は違う。私だけは自然と上手く調和出来ている。 どこだ殺してやる。
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