一話 夢幻の世界

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一話 夢幻の世界

 森村綾乃が目を覚ました時、空は白々と明けてくるところだった。  眠い目をこすり、目の前に広がる風景を、右から左へと視線を移して視界に捉えた。  彼女は、疲れ果てたように肩を落とした。  そこには大砂漠が広がっていた。  延々と続く砂地ではなく、所々岩山が突き出ていて、草も少しは生えている。  しかし、遠くに森林がかすかに見えるが、その中に建物らしきものは、何一つ確認出来なかった。  焚き火は薄い煙を立ち昇らせて、すでに消える寸前だった。  ふと気がつくと、キランの姿が何処にも見当たらない。 「キラン! キラン!」  急に心細くなった彼女は、彼の名を叫んだ。  その声はこの広大な砂漠と、どこまでも高い空に吸い込まれて、儚く消えていった。  空は真っ青に広がり、地平線とぶつかっている。  空がこんなに高く、こんなに青かったとは、今まで知らなかった。  都会では、排気ガスと光化学スモッグで灰色がかった空しか見れない。  キランが林の中から姿を現した。  手に何か持っているのが見える。  ひょっとして、と、鳥‥‥。  焼き鳥にするんだァー。  きっと、そうに違いない。  彼女は両手を上げて、その場でぴょんぴょん飛び跳ねた。  消えかかった火を、もう一度おこし直して、調理し始める。 「お腹が減っただろう」  もちろん、大きく頷いた。  確か、夕べから木の実と、水しか口にいれてない。  枝に刺して、火にあぶった一本を、キランは彼女に差し出した。 「うん、美味しい。でも、鶏肉よりも、淡白な味がする」  二人はあっという間に一羽を食べつくした。 「出発しようか」  二人はやおら立ち上がった。  まだ朝だというのに、太陽が力強く紫外線を振りまいている。  しばらく歩いていて気がついたのだが、彼は綾乃の真ん前をいつも歩いていた。  太陽が真上に来た時、初めてキランは彼女の右側へ並んで歩き出した。  東から昇ってくる太陽の日差しを、自分で受け止め、綾乃に日陰を作ってやっていたらしい。  優しいんだね。  何故だろう----。  何故、親切にしてくれるのだろう。  何故、苦しい砂漠をいっしょに歩んでくれるのだろう。  さっき‥‥たった、一日前に出会った見ず知らずの綾乃に、何故関わり続けるのだろう。
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