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アクセルのシンセと、ミショーの奏でるギター、耳をつんざく大音響、そして押し寄せる人の波。
かくも最高のノリで終演した。
綾乃たちはライヴが終わった後、とても真っすぐ家へ帰る気分にはなれなかった。
だから、こうしていつも集合場所に指定するトラファルガー広場へと戻ってきた。
ピートも池の縁へ上がった。
デズリーと手伝って、ジュディス、プリル、綾乃と引上げる。
六人は縁に沿って、一列に並んで歩きだした。
水を掛けたり、ふざけ合ったりしてしばらく騒ぎ立てていた。
春とは言っても、まで夜中は底冷えがするロンドン。
みんな、ジャンパーやジャケット等を着込んでいた。
綾乃も例外なく、タンクトップの上に白いシャツを着て、ジージャンをはおっていたが、下は綿のスカートだけだったので、足元が寒くてしかたがなかった。
黒い空に輝く星々。
両手を伸ばせば届きそうな感覚に、ちょっぴり感傷めいた気分に陥りそう。
明日は両親に国際電話を掛けようか、などと郷愁に浸り始めた綾乃の瞑想を打ち砕いたのは、いたずら好きがそのまま顔に表れているデズリーだ。
ザバーン!‥‥。
物凄い水音がした。
わざと飛び込んだようにも見えた。
水しぶきを掛けられたライオン像が、吼えたようにも聞こえた。
えっ、と思った瞬間、デズリーはマリアンを道連れに、マリアンはジュディスにつかまり、数珠つなぎになって、綾乃を巻き添えに、しんがりを務めていた小柄なピートまで支えきれずに、寒空の下、寒中水泳をするはめになった。
キャアアアア‥‥。
森村綾乃は心の中で悲鳴を上げた。
さほど深くもない池のはずなのに、六人は必死になって水面に出ようともがいていた。
まるで、二メートルも三メートルも潜ってしまったように、いくら泳いでも水面にたどり着きそうもないように感じられた。
何故だろう。
水が違う気がする。
トラファルガーの水じゃない。
「プハー‥‥」
「ちょっと、なんてことするのよ、デズリーは!」
「ぼくの服、今日、初めて着たやつだぜ。どうしてくれるんだ」
プリルとピートの攻撃に、デズリーはいたずらを見つけられた子供のように首をすくめた。
「わりぃ」
やっとの思いで顔を出した男女は、息を荒くして呼吸をするのに必死だ。
無我夢中で酸素補給に徹していて、しばし無言状態だ。
だがそれも数秒のことだった。
周囲に視線をめぐらせた五人は、一様に息を呑んだ。
五人‥‥?
顔にまとわりつく亜麻色の髪の毛をかき上げながら、マリアン・ロイスが言った。
「いったい、これはどう言う事」
「わたしたちって、確かトラファルガースクエアにいたのよね」
ジュディスが珍しく泣きそうな顔でそれに答えた。
カールされていた茜色の髪が、持ち前のくせっ毛に戻っている。
「どう見たって、トラファルガースクエア‥‥じゃないよな」
デズリーの言い方はケンカごしである。
誰に対してなのかは不明だが、たぶん、この状況に対してかもしれない。
池の回りには、うっそうと樹木が茂って薄暗く、枝の間から、微かに太陽の光がこぼれ落ちてきている。
そよそよと葉の触れ合う音と、突如現れた人間に警戒するような、鳥たちの泣き叫ぶ声が聞こえる。
冷たいはずの池の水は生温かく、外気は湿って息苦しかった。
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