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男女は濁った池から這い出た。
ビショビショになった服を絞って水気を取る。
そして、ぐるりと360度、周囲を見渡した。
トラファルガー広場に、にょっきりと樹木が生えた。
ライオンの像は岩山に変化してしまった。
遠くから、何か物音が聞こえてくる。
あれはどこかで聞いたことのある音。
生き物の鳴き声ではなく、東京では滅多に聞かれない音だ。
その音は、確実にこちらへ向かって近づいてくるようだった。
皆が音のする方に気を取られた。
「あれっ、アヤノがいないぜ」
「やだぁ、あの娘、どこへいっちゃったのよ」
ジュディスが、渋い顔をして言った。
「アヤノ! アヤノ! どこへ行ったんだ」
ここよ。
ここにいるじゃない。
森村綾乃は、池の側の岩陰に倒れていた。
そこへ、兜をかぶり、肩と胸に青銅製の鎧をまとった兵士たちが馬に乗って姿を現した。
赤いマントをひるがえす六人の兵士たちは、馬を止めて五人を取り囲んだ。
「なんだ、異様なやつらがいるぜ」
どっちが異様なのか‥‥。
デズリーは上眼遣いで、反抗的な眼差しを投げた。
その時、風もないのに池がざわめいた。
皆が池に釘付けになった途端、アメーバのように水が勢いよく跳ね上がった。
まるで生き物のように馬にまとわりつき、馬上の兵士もろとも吸い込まれるように、池の中へと呑み込まれていった。
カッ、カッ、カッ、と数頭の蹄の音が乱れて聞こえる。
夢を見ているのかもしれない。
あれは遠い昔のことだったような気がする。
何時間も何日も、何年も、眠っていたようなけだるさが残って起き上がれない。
でも、たぶん、ほんのちょっと前のこと。
たぶん、数分前、数秒前----。
思い切って重い瞼を開けば、その現実に直面するのだろうか。
暗闇の中をまさぐり続けていた空間、いったい何が起きたのだろう。
眼前には、青い空のキャンパスにカサカサとそよぐ樹木が彩っている光景があった。
髪の毛が湿っぽくて、体中が濡れているような感触に不快感を覚えた。
どうしてこんなところに寝ているんだろう。
以前のことはよく覚えていない。
なぜ、ここにいるんだろう。
両手を伸ばし、ちょっと目を細めてまっすぐに空を見た。
音がする---それは風。
樹木の息吹を感じる。
水のざわめきが聞こえる。
木の上に黒い点があった。
バサッと巨大な翼を広げた鳥が、真上から落ちてくる。
とっさに顔を背けた。
真っ黒で、それでいて緑色の大ガラスだ。
ヒューッと風が舞って、土埃があがった。
土----そして、草むら。
チクチクと草の先が、頬をつついた。
こんな草むらがあったことを思い出した。
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