CASE1

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 CASE1

この世から法で裁けない犯罪者が無くなればどれだけ多くの人が救われるー 雨に打たれながら、14歳の江利賀亜嵐はそんなことを考えていた。 親友である倉木健太は通り魔事件に巻き込まれて殺された。そして犯人はその場で自殺した。 おもむろにバッグからピストルを取り出した。それを上空に向かって撃つ。 雨が降っている空に、号砲が鳴り響いた。 時同じくして、倉木澪は墓参りに来ていた。その横に江利賀が立つ。 「貴方はいったい誰なんですか…」 「江利賀亜嵐です」 そう言った江利賀の手にはピストルが握られている。 「悪はなぜ消えないんでしょうか…?」 「え…?」 いきなり話を振られた倉木は困惑している。 「もしも犯罪がこの世からなくなったとしたら、大勢の命が救われる」 「どういう事?」 江利賀は答えることなく、ピストルを墓に置いて去っていった。 時は流れ、江利賀亜嵐は22歳になった。彼は今、阿笠大学のパソコンサークル「イレイザー」のサークル長として活動していた。しかしそれは表向きで裏では法で裁けない犯罪者を生きたまま裁くという活動をしている。そのメンバーは小南砥入、翠杏奈、清張零、振戸健、そして江利賀亜嵐である。彼らは丁度今、イレイザーとしての活動をしていた。 とある学校についたイレイザー達は標的である黛大知をモニタリングしていた。彼は女子生徒の部室を盗撮したことが疑われているのだ。 「黛は今部室に向かっている」 「了解」 黛は周りに誰かいないかを確認しながら部室の鍵を開けた。部室には誰もいない。と思われたその時背後から思いっきり江利賀が黛を殴りつけた。思わぬことに黛は困惑する。 「バレてないとでも思った?バレてる時点でセンスないよ」と呆れた感じで江利賀は言う。 「何だ、お前…警察か?」 「さあね」 ただならぬ事に身の危険を感じた黛は逃げ出そうとするが、その前に翠が塞ぐようにして立つ。 「やっちまおうか」と言いながら戦闘態勢に入った翠は一発、黛の脛に目掛けて蹴りを入れる。その痛みに黛は悶絶する。なおも逃げようとする黛に今度は小南がボクシングの様な動きをして構えていた。軽いジャブで相手を怯ませた後、素早く相手の懐に入り込み、渾身のアッパーを決めた。 「お見事だな」 「まあな、後は警察行きってやつよ」 後日、黛大知は建造物侵入の疑いで逮捕された。イレイザー達は部室でそのテレビを見ている。 「亜嵐の奴、いつもどうやって処理してんだろうな」 「さあな」 振戸と小南がそれぞれ思案している清張の声が聞こえた。 「今日も絶好調」 パソコンを優雅に扱いながらそう呟く。どうやらタイピングゲームで成績が良かったようだ。 「あ~あ、今日も全然ダメ」 翠はタイピングゲームをプレイしながらぼやく。 「相変わらずヘタクソだなお前は」 「失礼よ!」 翠のスコアを見ながら小南が言う。 「どうして機械音痴のお前がここにいるんだが」 「どう考えても場違い」 小南と振戸の小言に翠が「うるさい」と立ち上がり鳩尾を的確に突くが 二人に手を取られる。 「いつまでも食らってばかりの私じゃないね」 「まだ格闘では俺のほうが上だな」 そう言いながら振戸と小南は翠の手を放す。 「で、アイツはまだなの」 そう翠が苛立ちながら言った瞬間、その「アイツ」は部屋に入ってきた。 「始めるぞ」 そう言いながら亜嵐は入ってきた。 「今回のターゲットは、間嶋茂之」 「彼って1か月前か自動車でひき逃げ事件を起こした間嶋大海元総理の―」 「息子だ」 翠の言葉を振戸が引き継ぐ。 「確かこれってスピード違反、信号無視を繰り返して最終的には息子に隠蔽を図った…」 「ああ、結局真相は闇の中って訳だ」 小南の問いに江利賀が答える。 「似たようなケースが4日前にあったよね」 清張がそう言いながらネットを調べあげた。その結果このような記事が出てきた。 「市営バスの死傷事故は運転手が現行犯逮捕された、しかしこの元総理大臣は逮捕されずそれどころか書類送検されていない」 「こいつを生きたまま裁いて地獄に落とす。その為にはまずこいつを見つけ出す」 亜嵐は強い意志で2人の画像を見つめていた。 同じころ、警視庁捜査一課刑事の倉木澪は事件の捜査資料を見つめて大きく溜息をついていた。 その事件のガイシャ(被害者)は西山康介、36歳。死因は金属バットで殴打され即死。容疑者となる人物は未だに見つかっていない。 「まだ捜査資料を読んでるんですか?」 問いかけてきたのは倉木の部下である立浪智之である。倉木より年上だが階級は下である。 「全く手掛かりなし」 「この事件は確実に迷宮入り確定――」 「まだ早い」 言いながら立浪の額をペチっと叩く。 「ここ最近「イレイザー」という組織が成果を挙げているらしい、あんな探偵ごっこなんかに先に手柄を取られるなんて警察の威信に関わる。」 「なんですか、それ」 お前知らないのか、という呆れた感じで倉木は話す。 「犯罪者を生きたまま闇に葬る無法者、警察より先に動き事件を解決し罪人を消しゴムのように消し去る。それが彼らだ。」 「…」 「罪人を消すためなら、ハッキングや侵入等の違法行為も辞さない連中だ。そんなアウトローな奴らより手柄を先に取られるなんて不本意でしかない」 「でも犯罪を防止するために彼らが必要では――」 「その必要はない」 立浪の甘言を倉木は遮る。 「とにかく、彼らより先に手柄を挙げることだ」 そう言って倉木は部屋を出ていく。 イレイザー達の作戦本部であるキャンピングカー「ホームズ」は外からは完全至って普通のキャンピングカーにしか見えないが、内部は完全に作戦指揮の役割を果たしている。 大型モニターにキーボードが取り付けられ、最大7人座れるだけの椅子がついている。 「彼は今、朝暘大学の講師を務めているみたいだね」 彼のデータを調べ上げた清張が言う。 「如何にもエリートを鼻にかけている感じ」と翠が嫌味を込めて言えば、「総理大臣の倅となれば猶更」振戸も付け加える。 今回のケースの難しさはターゲットが総理大臣の息子という件だ。間嶋大海元総理は今でも与党内の影響が強い。裏から動かない限り、確実に潰されてしまうだろう。 警察と違い、起きていない事件に対してイレイザー達は裏から動けるという大きなメリットを持つ。デメリットは表沙汰になれば一巻の終わりである。 「裏から動いて確実に止める」 「それが俺たちのやり方だからな」 小南の言葉を江利賀が引き継ぐ。 「じゃあ早速動きますか、俺たち消滅請負人達が」 江利賀の言葉に皆が頷く。 目的地である朝暘大学は江利賀達が在籍する明智大学とは比べ物にならないくらいトップクラスの大学であり、大学とは言えないくらい設備が充実している。主に情報処理を行う大学だけにセキュリティもトップクラスである。 「これもおそらく間嶋元総理の受け売りだろうね」 江利賀が呆れたように言う。 「ここ、間嶋元総理の母校。同様に息子も」 「これどうやって潜る?」 清張と小南がそれぞれ呟く。 「防犯カメラがあって正面突破はできない」 翠が嘯いていう。 「で、個人情報は?」 「人使い荒いなぁ」 江利賀が清張をこき使い、個人情報を調べさせているのだ。 「データは参照できない。外部の人間に見られないように厳重にロックされている」 パスワードを知っているのは内部の人間のみという事になる。そこで振戸が提案した。 「だったら、警備員に成りすましてしまえばいい。恐らく警備員室が全ての防犯カメラの位置を掌握している」 「つまり周辺のカメラをピンポイントで変えれば良いってことだな」 「まさか」 「そのまさかだよ」 清張の問いに振戸はうなずく。 「振戸です」 警備員に扮して警備員室入ったのは振戸だ。 「ここは歩くUSBメモリの本領発揮」 「その呼び名はやめて頂きたい」 翠がからかって言うが、振戸はあっさりと往なす。 一度見たものを忘れないという特技から「歩くUSBメモリ」と呼ばれているのだ。 その振戸はパソコンにUSBメモリを挿し警備員室の情報をすべてコピーして抜き取った。これでこのパソコンの情報はすべてイレイザー達の元に送られる。 振戸は気づかれないように警備員室を出る。 振戸が「ミッションクリア」と車両内にいるメンバーに伝える。 「流石」 「元天才子役の名は伊達じゃない」 小南と翠がそれぞれ言う。 「これは決してイノシシ達にできない仕事ですよ」 「その呼び名、やめてよね」 翠は頬を膨らませながら言う。 「とにかく車両に戻る」 「その後、「エタンドル」に立ち寄る」 「良いねぇ」 その頃、倉木は捜査本部の会議を終えた所だった。事態は思わぬ方向に急変していたのである。 4人の死体が次々と発見されたのだ。 死因はいずれも最初の被害者、西山康介と全く同じ手口である。 「いったい何が起きてるんだ…」 予想外の事態に倉木も動揺を隠せない。 「犯人は敢えて人目の付くところに遺体を置いている、という事は絶対に捕まえる事ができないという自信があるのでしょうか。」 立浪も思案顔になる。 「警察を挑発している、このままではイレイザー達に間違いなく手柄を先にとられる。」 「彼らの力を――」 「その必要はないと言っただろう!」 立浪の甘言を突っ撥ねる。 「良いか、奴らはルール無用のアウトロー軍団。あんな探偵ごっこ如きに手柄を横取りされるなど警察官の名が廃る。」 「…」 「わかったな。彼らの名は2度と口に出すな。」 倉木に気圧され、立浪は一歩も動けなかった。 「エタンドル」は明智大学から徒歩8分の所にあるスイーツカフェである。イレイザー達のたまり場としての役割を担っている。 「いらっしゃい」 そう声をかけたのは深町茉美だ。彼女はこの店の1番人気で店長でもあり、彼女をお目当てに来る客も珍しくないようだ。 「あら、また活動中?」 「そう、今回のケースは中々難しいの」 深町の問いに翠は丁寧に答える。 「まぁ、とにかく何か頼もう」 「あれこれ見てみたけどあの大学のセキュリティは万全すぎる」 紅茶を飲みながら振戸は言う。 「ま、とにかく警備員室のデータは抜き取ったんだし」 いちごパフェを食べながら翠が楽天的に言うが、「いや、まだ甘い。警備の隙を突くにはここからが本題だからな」と小南が言う。 「…」 清張が黙り込んで何か考えている様子だ。 「レイちゃん?」 深町が清張に問いかける。 「その呼び名、やめてください。僕は男です」 清張がおもむろにノートパソコンを開く。 「気になることがある」 そういって清張はノートパソコンを動かしとあるニュースを表示する。 「このひき逃げ事件の被害者の夫が何者かによって殺された」 「ああ、確か金属バットで撲殺された…」 「名前は確か西山康介」 清張と小南と翠がそれぞれ言う。 今回のひき逃げ事件の被害者遺族である西山康介の妻、絵理と娘の裕子はひき逃げ事件によって命を落としたのだ。そしてその1週間後、夫も撲殺された。 「恐らく考えられるのは事件についてリークされないように口封じとして葬ったか…」 江利賀は思案顔になる。 「ねぇ、ちょっとこれを見て」 そう言いながら深町はスマホを差し出してきた。 「新たに4人の遺体が発見された…」 「遺体も敢えて人目の多い所に発見」 清張と振戸が言う。 「警察を挑発しているな、いつでも握り潰せるってわけか」 江利賀は思いつめた様子で言う。 「このケースは早めに決着をつける必要がある」 その頃、間嶋大海元総理は自分がいつあぶりだされるかと焦りを見せていた。前日、息子が4人殺したと連絡があったのだ。 ここで仮に息子が捕まる様なことになれば私の過去の栄光に傷がつく。 そうなれば私の人生も終わりだ。 間嶋はこめかみを指で掻きながら考える。 翌日、イレイザー達は全員集まって作戦を練っていた。警備員室のパソコンから情報を抽出する為だ。 「ここの監視カメラは確実にハッキングしておく必要がある」 小南がカメラを見ながら言う。 「やっちゃていい?」 目を輝かせて清張が言う。 「お構いなく」 翠がどうぞどうぞと言わんばかりに言う。 すると早速ハッキングして見せた。キーボードを華麗に扱う姿はまるでピアニストである。数分で全ての監視カメラにハッキングしてカメラの電源を落としたのだ。 問題はどうやって潜入するかである。 「小南、すぐに朝暘大学に行き先を指定して」 「了解」 朝暘大学に到着し、振戸は先生として清張は学校の職員として潜入することになった。清張から情報を得る。 「今日、間嶋茂之が受け持っている授業は僅か1つのみ」 つまり一時間半以内にすべての情報を集める必要がある。 「了解」 間嶋の部屋の前に着いた江利賀達はストップウォッチを設定していた。 「制限時間は教室から戻ってくる時間を含めて2分」 「つまりそこまでの時間でかき集めろってことね」 「じゃ、やっちゃいますか」 そう言いながら小南はピッキングツールを出す。そして30秒足らずでドアを開けた。 「すごいね」 「ホントは違法行為だけどな」 目を輝かせて言う翠に江利賀が突っ込む。 小南の実家は鍵屋という事もあり、鍵の扱いには手馴れていた。 「振戸君の技術は中々最高だ。これならボールペンに見せかけられる。このご時世ピッキングツールを持ち歩くのは法に触れるからな」 小南が言いながら手にしているのはボールペンに見せかけたピッキングツールだ。 「いや、開けたら法に触れるでしょ」と翠が突っ込みながら隠しカメラと盗聴器を設置していく。イレイザー達の潜入捜査に欠かせないアイテムは全て振戸が製作しているのだ。 捜索している内に江利賀が引き出しを開けた。その中にはノートが入っていた。そのノートには新聞の切り抜きが張られている。 「これは恐らく事件の結果を示す記録だろう」 「完全犯罪って事?」 小南が言ったことを翠が引き継ぐ。 「あれもこれも全て父親が握りつぶしたんだろう、息子の犯罪をもみ消すためにね」江利賀がきっぱりと答える。そしてもう一つの引き出しの中には袋が入っていた。 「まさかねぇ…」 その時、3人が考えていると振戸から連絡が入った。 『授業が終わった』 「時間を稼げない?」と小南が答える。「こっちはまだ忙しいんだよ」江利賀も答える。 『いやそんなこと言われても――』 「90分では収まりきらないほどの情報が沢山あるの」 振戸が言ったのを翠は素早く遮る。 『こっちもこっちで分かったんだよ』 清張がパソコンを動かしながら答える。 『ま、その話は車で話すよ。ということでケンちゃんよろしく』 振戸は大きくため息をつく。 「ま、やってくれるっしょ」小南が軽い気持ちで言う。 江利賀は袋の中をこっそりと見る。すると笑みを浮かべた。 「間嶋先生の授業、大変好評でしたよ」と振戸は間嶋に近づく。 「いえいえ、それより貴方は?」 「この大学に講師として赴任した吉本です」 振戸は咄嗟に偽名を名乗る。 「貴方の授業を期待しています。今後ともよろしくお願いいたしますよ」 そう言って二人は通り過ぎる。「ああ、やれやれ」 振戸はお辞儀をした瞬間を見計らってシール型発信機を間嶋のカバンに取り付けた。 ホームズに戻ってきた面々は状況を報告する。 「全く、人使い荒いんだから」と振戸が言うのを制して「流石だよ、元天才子役」と清張は煽てる。 「で、あんな事やそんな事はわかったのか?」 「このノートにはありとあらゆる事件の切り抜きが網羅されている」 ノートの中には様々な事件が記載されている。その中身を見て小南は驚愕した。 「完全犯罪の記録だ」 「10件近くの犯罪は全て表沙汰になる前に消されている」 「あれもこれも父親の力って事ね」翠が呆れ返って言う。 「それだけじゃない。このUSBメモリも気になる」 「重大な秘密が入っていたりして」清張は茶化して言う。 「そしてこの袋」江利賀が指し示す。 「大量の違法薬物が入っていた。恐らく父から渡された…」 「父は証拠隠滅の為に渡したんだろうね」 振戸は学校職員として得た情報を話す。 彼は野球の方でもトップクラスであり、野球部の監督も受け持っている。金属バットを所持していたのもそこから繋がったとしたら合点がいく。 清張は早速USBメモリをパソコンを挿す。その結果を見て驚愕した。 「これはヤバいことになるかもしれないよ」 「え?」 翠が清張に質問したのを江利賀は素早く引き取る。「金儲けだよ」 「証拠隠滅かつ金を受け取る。巧妙な手口だ」 すると、その時間嶋の方に動きがあった。完全に何かを探しているようだ。 監視カメラを全員見る。 「まさか気づいた?」 「次の犯行計画の相談だろうね」 「密売人と連絡してんだろ。だったらそのまま両方潰す」 「その前にこの2つのブツ、匿名で送り付けちゃう?」清張はなにか思いついたようだ。 その日の夜、倉木は警察庁に残っていた。匿名で送られたUSBメモリと袋に入った薬の所在を知らべる為だ。 ――どういう事だ… 倉木は思案顔になる。その中には犯罪の計画が多数網羅されている。そして『俺たちが先に真実に辿り着いた』とメモ書きがされている。 イレイザー達が先に証拠をつかんだのか… そう思いながら倉木は頭を抱えている。 ただ、これではっきりしたと倉木は確信を持った。間嶋大海は危険運転致死傷罪、息子の茂之は 薬機法違反(危険ドラッグ所持)で検挙することは可能であるという事である。 ――だとしたら、西山康介も息子によって殺されたか… なんて、ダメな刑事だ。彼等の行いを認めたくはないが、罪人を嫌っているのは間違いない。そんな奴らに頼っている自分が嫌いだ。 倉木は天を仰ぎそんな事を思った。 翌日、江利賀は一人で「エタンドル」に来店していた。罪人を消し去る「イレイザー」として赴くときにはプリンを食べるのが彼にとってのルーティンである。 「あら、いらっしゃい。ご注文は?」深町が尋ねる。 「いつものプリンを」 「了解」 しばらくして江利賀の元にプリンと紅茶が運ばれてきた。 「後悔してる?」 「別に」 「7年前の通り魔事件からもう2度と包丁を持てない。助けられた事を最初は恨んだりもした、生きていて意味がないって」 深町は7年前の通り魔事件に巻き込まれた過去がある。あれ以降トラウマで包丁を触ることがままらないのだ。 「あの事件の犯人は自ら首を切って自殺。被疑者死亡のまま書類送検された。俺は生きたまま裁く事を亡くなった友人に伝えた。」 「それって…」 「間違っているのは百も承知です。だけど亡くなった人間にかけてやる言葉はない」 江利賀は深町に強く伝える。 「わかったわ、いってらっしゃい」 イレイザー達は清張がプリントアウトした紙を参考に目的地に着いていた。その地点にはすでに間嶋が待ち構えていた。 「随分早いな、さすがエリート総理大臣の息子」 現れたのは密売人でその名を知らないものはいないとされる雑賀仁三だった。 「こいつって確か過去にも4回覚醒剤取締法で捕まった奴じゃ…」 「まだ懲りてなかったのか」 清張と小南が声を大にして言う。 危険な男であるという事は間嶋にとっては重々承知済みだった。しかし売るには雑賀の力が必要だったという事だ。 考え込む面々に、江利賀は言った。 「とにかく互いの息の根を止める。既に奴らは俺たちの手の内だからな」 そう言いながら江利賀と小南と翠は車を出る。 「どういうことだ!」 「それが何故か無くなっていて…」 「言い訳など聞きたくない!」 声を荒げながら雑賀は間嶋の首を絞める。 と、その時空砲が鳴った。プロップガンの引き金を江利賀が引いたのだ。 「なんだ貴様は!」慌てふためく雑賀を尻目に江利賀が答える。 「それはまだいえないんだよね」 「は?」 そこに翠と小南も現れた。 「クズ同士仲良くお縄についたら?」 「バカとエリートは死ななきゃ治んないってな」 その言葉に端を発したか、雑賀はナイフを片手に小南と翠に襲い掛かってきた。その隙に間嶋はこっそりと逃げ出す。 相手はナイフを持っており、中々距離を詰めづらい。動きを止めるのが先だ。 雑賀がナイフを突き出してきた腕を小南が取り、ナイフをはたきおとす。 小南が腕を振り回し、投げ飛ばした。見上げた顔を翠は蹴りを入れて吹っ飛ばした。 「許しを乞うた方がいいんじゃない?」と小南は雑賀に耳打ちするも間に合わなかった。翠が的確に雑賀の鳩尾を突いて気絶させたのだ。 一方、逃げた間嶋の前には江利賀が立ちふさがった。 「あんたもワルい奴だねぇ、父親の事件の証拠隠滅の為に何の罪もない人間を5人も殺すだなんてね」 「その証拠はどこにも――」 「もう警察の手に渡ってんだよ、いい加減諦めたらどうだ。」 「な…まさかお前が巷で噂の…」 「その通り。今頃父子共に捕まえる為に動いてるだろうなぁ」 「ふざけやがって!殺してやる…殺してやるよ!」 半狂乱になった間嶋がバールを持って襲い掛かってきた。しかし戦闘慣れしている江利賀からしてみれば敵ではなく、あっさりとバールを奪い腕を取った。そしてそのまま首を絞め意識を落とし、投げ落とした。 「間嶋、お前の行き先は地獄だ。お前が居なくなって皆が喜ぶ。愚かな父親と共に地獄に落ちろ」 そう吐き捨てながら江利賀は間嶋の手を踏みつけた。間嶋は痛さのあまり声を失った。 匿名通報があった場所に倉木と立浪は到着した。その目には信じがたい光景が移っていた。間嶋と雑賀が何者かによって捕らえられていたのだ。 その何者かは倉木にはすぐに理解できた。砂には「ERASE」の名が書かれている。 「またしても奴らに手柄を横取りされるとは、最早刑事失格の域だ」 またしても出し抜かれて倉木は自嘲気味に呟く。 「彼らの正体を暴く必要があるのではないでしょうか」 立浪の言葉も今の倉木には響かなかった。 その2人の姿を江利賀は遠い所から見つめている。 その日の内に間嶋茂之と雑賀仁三は逮捕された。間嶋は取り調べで父親の厳罰を求める署名運動を阻止する為に西山康介を含め5人の殺害と危険ドラッグの所持、そしてその危険ドラッグを雑賀に密売しようとしたことを認めた。 また同日、父親の間嶋大海元総理大臣も危険ドラッグ所持による薬機法違反の容疑及び自動車運転処罰法違反の容疑で逮捕された。 間嶋は始め、容疑を否認していたが、息子の自供と3度の信号無視をした映像がドライブレコーダーを見せると危険ドラッグを吸ったこと、証拠隠滅するために息子に渡して密売計画を立てた事を大筋認めた。 「一大スキャンダルだね」清張がネットに上がっているニュースの記事を見て言う。 「逃げられるとでも思ったかな」振戸が新聞記事を見て呟く。 「ま、これで懲りたっしょ」と翠がチョコケーキを食べながら言う。 「で、亜嵐の奴はどうした」と小南。 「ああ、アイツなら外出中」清張がパソコンを扱いながら言う。 その江利賀は一人空き教室に来ていた。あの時に来ていた女刑事に見覚えがあり清張に調べてもらっていたのだ。その女刑事の名は「倉木澪」だった。 詳細に書かれていたデータには「7年前の通り魔事件で弟を失った」との記録が記されていた。 まさか…江利賀は疑問を抱く。 一方、倉木は射撃場に一人で来ていた。傍にあった拳銃を強く握りしめる。そして銃を構えた。 またしても探偵崩れ達に先に手柄を横取りされた。その不甲斐なさから的を大きく外している。ふと目を開けると通り魔事件の犯人の顔を浮かび上がった。倉木は咆哮し、銃を撃った。 広い射撃場に、乾いた銃声が鳴り響いた。
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