CASE7

1/1
80人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

 CASE7

「この俺に何の用だ…?」 江利賀は倉木春影に呼び出され通り魔事件の慰霊碑の前にいた。 「君が最近噂の探偵崩れのリーダーか?」 「そうですが」 「何故そういうことをしている。お前たちを逮捕することが出来るんだぞ、だが娘は頑なにお前たちを逮捕しようとしない」 「俺たちは遊びでこんな事をやっている訳じゃない」 「何だと?」 「俺は14歳の頃、この場所で友達を亡くした。犯人はその場で命を絶った。それが何より悔しくて俺は犯人をどんな手を使ってでも生きて裁く事に全てを賭ける事にした。だから人生棒に振ろうが関係ないね」 「それがどういう事か、わかっているのか!」と春影は詰め寄り胸倉を掴もうとしてきたが、突如目が霞み、その場に崩れ落ちた。 「え…?」 「お父さん!」 駆け寄ってきたのは澪だった。江利賀が呼び出されたことが気になり隠れて見ていたのだ。 「何で、来ないでって言ったのに」 「放っておけるわけないでしょ」 「これはいったいどういう事なんですか」 突如崩れた春影に疑問を隠せない。澪は重く口を開いた。 「父はメニエール病を発症していて一か月後に退官するつもりだ」 「…」 「実は昨日、逮捕するかどうかで君達の処遇を巡って揉めたんだ」 昨日―― 警察官長官室に呼び出された澪は春影から一枚の写真を突き付けられた。 「違法捜査をしている警察官がいると署内でも噂になっていたがまさかお前だったとはな」 「…」 「お前はどこまで私に迷惑かければ気が済むんだ!出世が惜しくないのか!」 春影は机を強く叩き威圧するかのように言った。しかし澪も負けじと言い返した。 「出世することなんかとっくに捨てている」 「な…」 予想外の言葉に春影は言い返す力が一気に失せたようだった。 「貴方にとって彼らは敵かもしれないけど、私にしてみれば大切な仲間よ」 「もう庇いきれんぞ、何か問題が起きても自分でどうにかするんだな」 「言われなくてもそのつもりよ」 そう吐き捨てて澪は長官室を出て行った。 「確かに俺たちは違法なことを腐るほどやりすぎている。だからいずれ捕まっても警察を恨んだりはしない」 「何様のつもりだ!」 「だとしても、私には彼らの力が必要なの」 2人の会話に割り込むように澪は言う。 「俺たちは好きなだけ悪者退治してやるさ、例え法に触れたとしてもな」 「貴様――」 するとその時一人の少女がフラフラと歩いてきて澪にぶつかってきた。 「ごめんなさい」 「いいよ気にしないで、それよりその痣はどうしたの」 「…」 何か隠してる、江利賀と澪はお互いに顔を見合わせた。 一方、江利賀を除く他のメンバーはモニターに目が釘付けになっていた。今回弾き出したデータは澪にぶつかってきた少女だった。 「小学生…?」 「一体どういうことだ…?」 するとその時江利賀と澪が一人の少女と共に部屋に入ってきた。その顔を見て4人はモニターを確認する。連れてきた少女はその画面と一致していたのだ。 「実は気になることがあって保護したんだ」 唐突に切り出されて4人の頭にはクエスチョンマークが浮かんでいる。 「ちょっとごめんね」と言い、江利賀は少女の袖を捲った。その痣を見て4人の表情が一気に変わった。 「まさか…」 「そのまさかかもしれない」 振戸と小南が思案していると少女は蚊の鳴くような声で話し始めた。 彼女の名前は柿元麗奈と言い、佐乃山小学校に通っているのだと言う。そんな彼女は1年以上クラスメイトからのいじめにあっている事も告げた。そして教師たちはそれを見て見ぬふりをしていた。 「許せない…」と翠が怒りに燃えている。 「無能な連中に代わり、僕たちが悪い連中を退治してあげる」と江利賀は言う。 倉木は捜査本部に召集されたがどこか上の空で聞いていた。あの少女の事がどうしても気になっていたのだ。そして会議が終わった後、立浪を呼びつけてこう言った。 「私はこのヤマを降りるわよ」 「どうしたんですか一体」 「こんなのやっても時間の無駄よ。それよりも大事なことがあるから」 その言葉を聞いて立浪は勘づいたようだった。 「彼らが担当する事件は勝手にやらせておけばいい」 「でもそれはいくら何でも無責任じゃ――」 「私からしてみればいじめを放置して見て見ぬふりをするのが無責任だと思うけどな、そんな奴らから子供を守るのも仕事だ」 それを聞いた立浪は何も言い返せない。どうやら「イレイザー」としての活動が来た事を合図していた。 「それに私は出世にさほど興味はない。いつだって現場百篇だ」 その言葉を聞いて立浪は微笑んだ。 「何が可笑しい」 「先輩ならそういうと思ってましたよ」 「調子に乗るな」 言いながら立浪の脇腹目掛け肘うちした。 「引き返すなんてもう出来ない。それは分かっているな」 「ええ、地獄までついていきますよ」 立浪の覚悟を聞いて倉木も微笑んだ。 佐乃山小学校には翠と小南が潜入することになった。彼女の在籍するクラスルームにピッキングで侵入し様子を探る。放課後という事もあり人はあまりいない。 「見たところは普通のクラスって感じだな」 「特に目立ったものはないわ」 そう言いながら二人は小型カメラを設置していく。するとその時翠は柿元の机の引き出しからあるものを見つけた。 「クラス写真?」 「ねぇ、生徒の顔にバツが書かれているわ」 「これがいじめ加害者という事か…?」 「そしてこのメッセージ」 紙には乱筆で『早く楽になりたい』とだけ書かれていた。 「彼女は自殺しようとしている」 一方、江利賀と振戸は教育委員会の人間を装い、柿元麗奈の家を尋ねていた。 「どうぞ、こちらへ」 柿元麗奈の母親である舞子に促され二人は家に入る。席に着くなり江利賀は唐突に切り出した。 「率直に申し上げます。貴方の娘さんはいじめの被害にあっています」 その言葉を聞いて舞子はどう反応すべきか逡巡している。 「昨日、偶然ですが娘さんを見つけました。その際、娘さんには痣が何か所も見られました」 「何か心当たりは?」 舞子は心当たりがあるようで話し始めた。 「麗奈は泣きながら帰ってくることはしょっちゅうありました。その度に『この世から消えたい』等言ってきたんです」 「担任の先生などにご相談はされたんですか?」 「何度も相談はしました。しかし『いじめは無い』だけの一点張りで取り合いませんでした」 学校が何か隠しているのは間違いない。メンバー全体で考えが一致していた。 部屋には江利賀と振戸と清張と倉木がいる。 「小南君と翠ちゃんはどうした」と倉木が尋ねるが「あの二人は麗奈ちゃんのケアにあたっている」と清張が言う。その言葉に「珍しいな、イノシシ達にしてみれば」と振戸は反応するが、江利賀は「何か思うところあったんじゃない?」と特に気にしていなかった。 すると突然倉木が「いじめ事件を取り扱うのは本当にしんどい」と話す。その言葉に皆キョトンとしている。 「清張君、5年前の『国立市中学校いじめ自殺事件』を調べてもらえるか」 「わかりました」 言われて間もなく事件の概要をモニターに出す。 「確かこの事件を機にいじめに対する認識が変わるようになった」 「大人たちの醜い隠蔽工作が暴かれた事件だ、アンケートにはいじめの一覧が多数あったが、『いじめと自殺の因果関係は認められない』と結果が出された」 「自己保身に走った結果、このいじめ問題は自殺事件の中でも、最も問題のあるケースに昇華した」 「常識ある大人が対応を一つ間違えれば、救えるはずの命が一つ失われていく」 その言葉を小南と翠は通信機越しに聞いていた。そして麗奈に話しかけるように言う。 「俺も実は妹をいじめ事件によって亡くしたんだ」 初めて聞く話に翠はどう反応すべきか困っている。 「悪い奴を追求することは全くしない、そればかりか事実を隠そうとした。だから人は信用ならない」 憮然として小南は言う。 「でも私の方が驚くかもね」と翠。 「私もいじめられた経験があるの」 中学校の時、翠はクラスメイトから執拗にいじめられた経験があったのだ。しかしとある日を境に彼女のいじめは止んだ。 「そのいじめていた奴らを全員ボコボコにしてやったわ」 その話に小南は驚いた。 「おねえちゃん、大丈夫だったの?」 「まぁね」 「今だったら大問題だな」と小南は笑いながら言う。 「だからこんなものは書かないで、強く生きるの」 そう言って翠は手にしていた遺書を破り捨てた。 「死なないって約束できる?」と翠は麗奈と指切りげんまんをした。 二人の会話を聞いていた皆は納得する。 「だからあんなにこだわってたのか」 「二人は何より人の痛みに敏感という事は理解した」 「じゃあ、止めに行きますか」 江利賀の言葉に皆決意を新たにした。 翌日、イレイザーは全員モニターを見ていた。授業風景が映し出されている。 しばらくして江利賀は異変に気づいた。 「学級崩壊が始まっている…」 その言葉に4人は唖然となった。 「いじめの原因はそこ?」 「担任も注意しようとしないな」 「もはや担任に舵取りは不可能だな」 するとその時清張が何かに気づいた。パソコンを動かし一人の男をモニターで大きく拡大してみる。 「この男確か…」 そう言いながら清張はパソコンを操作しモニターにその男性教師を表示させた。その男性は『立石巧』と表示されている。 「ビンゴだ」 「どういう事?」 振戸の問いには答えず清張はパソコンを動かす。そこには『国立市中学校いじめ自殺事件』で自殺した生徒の担任として名前が出ていた。 「何か聞いたことがあると思って調べてみたんだ、やはり妙な違和感を感じた」 「こいつはたまげたな」 「それだけじゃない、彼はどこかのバーに出入りしている」 モニターには立石が建物の中に入る様子が映し出されている。 「まさかそこで働いているとか?」 「そんな奴が教師になっているだとか、どうかしている」 翠と小南があきれたように言う。 「とにかく、この立石について探ってみるか」 その頃、倉木と立浪は佐乃山小学校に潜入していた。すると突然教室から悲鳴が上がった。倉木はすぐに教室のドアを開けた。目にした光景は柿元麗奈がいじめを受けていたのだ。 「やめなさい!」 その言葉に教室全体の時が止まった感じがした。立浪に「彼女を頼む」と指示を出し麗奈を教室から退出させる。 「こんな事して良いと思ってるの!」 「うるせーくそばばあ」 「な…」 思いがけない言葉に倉木は絶句してしまう。 「小学生だからと言って何やっても許されると思ったら大間違いよ」 倉木は小南と翠が設置した小型カメラを回収して教室を出ていく。 教室を出た倉木に江利賀からの電話がかかってきた。 「倉木さん、立石巧の周辺探れますか?」 「どうした?」 「彼は『国立市中学校いじめ自殺事件』で自殺した生徒の担任です」 倉木は驚いたか声が出ない。 『こちらでもわかった事があります』と立石の住んでいる所に潜入している小南が『彼は会員制のバーに出入りしています』と告げた。 『そして彼の部屋の引き出しから銃らしき物が出てきました』と共に潜入中の翠が言う。 「何!?」 『恐らく3Dプリンターで製作されたものだと思われます』 「翠ちゃん、その銃を押収して」 『わかりました』 「一体誰を殺すつもりなんだ…?」 翠が押収した3Dプリンター銃を見て江利賀が言う。 「これ大ごとだよ、教師が生徒を殺す」 「まぁ、そうだろうな」 清張と振戸が驚いた様子で言う。 「とにかくこれでハッキリした、麗奈ちゃんが立石の事を怖がっていたのはこの銃で脅されたからだろう」と江利賀は確信を持ったかのように言う。 「学級崩壊が起きている時点で彼女は見殺しにされている、彼女のクラスメイトにも聞いてみたが酷い物だったよ」 倉木は独自に彼女のクラスメイトに調査したが、殆ど同じ内容だった。 「授業にならないことは一度や二度ではなく、彼女が一人ぼっちで給食を食べることも多かったそうだ」 「誰の手にも負えないという事か」 即ち、今頼れるのはイレイザー達だけである。とその時立浪が部屋に入ってきた。 「お疲れ様です」 「一体どうされたんですか?」 立浪が手にしていたのはスタンガンだった。 「まさか…」 「ええ、どうやらそのまさかですよ。立石の引き出しの中から見つかったんです」 清張はすぐにパソコンを動かし、立石の購入履歴を調べる。 「ありましたよ」 そう言いながらスタンガンを購入した履歴を表示させる。 「これを使って余計なことを喋らせないように口止めしていたという事か」 「教師のすることじゃない」 「彼はモンスターティーチャーだ。いやもう奴は人間じゃない」 「これ以上彼女を食い物にさせない」 メンバーは皆、気を引き締めた。 小南と翠は『エタンドル』にいた。麗奈も同席している。深町が注文したものを運んできた。 「どうぞ」 「ありがとうございます」 翠はいちごパフェを口にしながら深町に事の顛末を説明した。深町は苦虫を嚙み潰したようような顔をした。 「それは大変だったわね」と深町は2人を労わる。 「彼女は先生に脅されている。余分な事を喋らせないように」 「最低な先生だこと」 深町は麗奈にいちごケーキを持ってくる。そして麗奈の頭をポンポンと撫でた。 「いじめは生徒だけが関わっているだけじゃない、先生も加担し隠蔽することもある」 「そうしたらもう責任を取らす事はできない、ぶん殴ってやりたいわ」 小南と翠は憤るかのように言う。二人を宥めるかのように深町は言う。 「提案があるんだけど、その彼が出入りしているバーに行かせてくれない?」 「何をするつもりですか?」 「お仕置きが必要みたいね。二度と教鞭をとることが出来ないようにしてあげるの」 「まさか、潜入捜査するつもりですか?」 「力になれるなら一回やってみたいわ。ねぇお願い」 深町は手を合わせお願いする。その姿を見て小南と翠は互いに顔を見合わせた。 その夜、行きつけのバーに立石はいた。店員と親しげに話をしている。するとそこにおめかしした深町が来店してきた。立石の姿を確認するや否やすぐにICレコーダーのスイッチを入れる。 「隣いいですかぁ」猫撫で声で深町が尋ねると、「喜んで」と立石は微笑み隣に座るように促す。 その様子を全員がモニタリングしている。 「ホントに溶け込んでる。潜入の才能もあるだなんて」 「すげえ」 清張と小南がそれぞれ称賛の声を挙げる。 「深町さん、彼がお酒強いか聞いてもらって良い?」 通信機越しに深町は江利賀の指示通り、立石に質問をする。 「お酒って強いんですかぁ」 「ええ、何杯でもお付き合いしますよ」 その言葉を聞いて、―落ちるな、この男。深町は笑みを浮かべた。 「舞台は整ったわ」 「後は奴がベラベラ喋ってくれるかどうかだ」 翠と振戸は期待しながらそのモニターを見ていた。するとその時、深町に動きがあった。 「酔っぱらった勢いで色々喋ってくれてるわよ」 「深町さん、さらにプッシュかけて」 「了解」 その言葉を受け、深町はさらに質問攻めした。 「最近、いじめ問題が深刻ですけどどう思ってます?」 「どうだかなぁ、でもあの子が早くいなくなってくれればすぐに済むんだよぉ」 そう言った途端、立石はダウンした。その隙をついてこっそりICレコーダーのスイッチを切った。それをテーブル席に座っている倉木と立浪に手渡す。 「ご苦労だったな」 「役に立つなら何でもやりますよ」 「これでアイツを落とせますね。亜嵐君、今からそっちに戻る」 部屋に戻ってきた倉木と立浪はメンバーに結果を報告する。倉木はICレコーダーのスイッチを入れる。その会話の内容はゾッとする内容であった。 「教職員のいう事ではねぇな」 「深町さんの名演技でしたね」 「気になるのは会話の中身だ」 その会話の中身には「給食でトマトが出てくれれば、彼女はもうこの世からいなくなる」と話している。 「トマトが出てくれれば…?」 「一体何を考えているんだ…?」 江利賀と小南が考えている。閃いたのは振戸だった。 「アレルギーだ。確か彼女の母親はエピペンを持っていた」 「どういう事?ていうかエピペンって何?」と翠が尋ねる。 「食物アレルギーなどによるアナフィラキシーに対する緊急補助治療に使用される注射薬だ」と振戸は簡単に説明し「レイちゃん、麗奈ちゃんの個人データを出して」と続ける。 「はいはい」 振戸は舞子との会話の中に「無理矢理トマトを食べさせられそうになった」と言う言葉がどうも引っかかっていたのだ。 しばらくして清張はモニターにある画面を見せた。トマトに陽性反応を示している。そしてもう一つの写真を画面に表示させた。 「二日後にトマトが食材として使われている。アナフィラキシーショックで自然死に至らせるつもりだ」 「つまり、証拠がない完全犯罪って事?」 翠の言葉に振戸は頷いた。 「奴は完全犯罪に持ち込むつもりだ。仮にアナフィラキシーショックで命を落としたとしたら文書訓告だけの軽い処分だけで済む」 「とにかくこれで奴を落とせる、攻め込みましょう」 小南は意気込んで言うが、「ダメだ」と立浪が止める。 「なんでですか!?」 「落とすのであれば、変に刺激しない方が良い」 「それに、逃がしてしまってはここまでの苦労が全て水の泡になる」 立浪に続き、倉木も言う。 「じゃあ、そのICレコーダーを学校全体に校内放送するのはどうでしょうか」と振戸。少し考えて倉木は「アリだな」と言う。 「良いんですか?そんな事して」 「ああ、少なからずアレルギーとなる食材を分かっていて無理矢理食べさせた時点で傷害罪に問う事はできる。お酒を飲めない人に飲ますのとほぼ同じだからな」と倉木は淡々として言う。 「じゃあ、そのプランで行きますか」 「残された時間は少ない、彼女の為にも短期決戦で行くぞ」 二日後、麗奈は登校してきた。周りからの目線は冷たい。そこに立石がやって来た。その瞬間校内放送のチャイムが鳴った。 『ごきげんよう、皆さん』 『今からこの学校は我々がジャックした』 倉木と立浪の声が校舎全体に高らかに響く。 『この学校にはいじめを見抜くことが出来ない風上にも置けないクズみたいな教師がいます』 『誰なのかその耳でよく確かめてください』 そう言いながら立浪はICレコーダーのスイッチを入れた。その会話に校内全体が騒然となった。その様子を江利賀と清張と振戸がモニタリングしている。 「立石が発狂して逃げ出した」 「了解」 「後を追うよ」 別室で待機していた小南と翠が動き出す。 立石が逃げた先に小南と翠が立ちふさがった。翠は両手にスタンガンとリベレーターを持っている。 「電気にする?銃にする?それともワ・タ・シ?」 翠が色目を使って立石に迫ってくる。その姿に立石は慄いた。 「いじめを見抜く事が出来ない教師なんかこの世には必要ない、そればかりか子供を死なそうとしたお前など人間じゃない」 「最悪のクズ教師、地獄に落ちなさいよ」 そう言った翠は戦闘態勢に入ると立石の腹を目掛け思いっきり蹴っ飛ばした。その反動で吹っ飛ばされた立石は反撃しようとするが小南のアッパーが顔面に作裂した。 尚も立ち上がろうとする立石に翠は金的を決めた。そのまま大声をあげて立石は動かなくなった。 そこに倉木と立浪が駆け寄ってきた。倉木は満足そうな笑みを浮かべている。立浪は立石に手錠をかけた。 「良くやったわね」 「ええ」 倉木は立石に振り向きながらこう告げた。 「子供に手をかけた罪は重いぞ、恐喝と銃刀法違反の容疑で逮捕する」 「それともう一つ、アレルギーを無理やり食べさせようとした件でも話を聞かせてもらうからな」 立石の顔から生気が無くなった。 事件解決後、小南と翠は柿元舞子の元を尋ねた。 「今回はどうもありがとうございました」 舞子は深々と頭を下げた。 「いえ、我々は彼女の力になれて良かったです」 「もうこれで怯える事無く学校に通えるでしょう」 立石は恐喝と銃刀法違反の容疑で逮捕され、懲戒免職の処分になったことも伝えた。 「あの子に笑顔が戻ったのは貴方たちのお陰です」 その頃、倉木は立石の取り調べを続けていた。 「警察だから何やってもいいと思ってるんですか」と立石は挑戦的な態度を見せる。しかし倉木は動じず「その言葉そっくり返してやるよ」と動じない。 「なぜあんなことをしたんだ」 「子供が邪魔だったからに決まってんだろ」 倉木は取り調べをして行くうちに不愉快な気分になっていくのを感じていた。立石の口角が徐々に上がっていく。しかしその表情は一瞬で凍り付いた。倉木がICレコーダーを再生したのだ。 「食べられないことを知っていて無理やり食べさせようした行為はもはや虐待だ。お前はもう人間じゃない。臭い飯でも食って一生懺悔してろ」 そう吐き捨て、倉木は立浪と変わるように言い、取り調べ室を出ていく。 部屋にいた江利賀は平井太郎のデータを見ていた。 ―平井翔太―その名前を見るだけで怒りを覚える。すると深町から電話がかかってきた。今すぐに『エタンドル』に来いとの事らしい。 『エタンドル』に着いた江利賀は深町のパソコンを食い入るように見る。そのパソコンには国際防衛センターポロニウム散布テロによって死亡した名簿が書かれてあった。その名前に江利賀は驚愕する。 『倉木有紀子・38歳・監察官』 「澪さんの母親がこの事件に巻き込まれ亡くなった…?」 「この事件、もしかしたら未解決のまま残ってるかも知れないわ」 もう関わることはないだろうと思っていたが、この事件は自分にとっては避けては通れないのだろう。そう思っていると深町が新たにデータを表示させる。 「この『ブラッド・ペンシル』って犯罪組織のリーダーは安錚亨。その彼と接点があったのは平井太郎よ」 モニターには平井太郎の顔写真が表示されている。江利賀は険しい表情でその写真を見つめていた。 その頃、春影は長官室に飾られた有紀子の額縁写真を見つめていた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!