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運ばれてきた酒よりも、並べられた魚に火が通っていないことに杏はおののいていた。しかもそれをマナカもユキシもうまそうに舌つづみを打っている。
「あの……魚には火を通さなくてよろしいのですか?」
恐々問えば、マナカはここでも大口を開けて豪快に笑うのだった。
「やはりそうくるか。
もちろん全く問題ない。とりたての魚であればこうやって食べるのが一番だ。我らは代々こうやって食してきた。食べてみるがいい」
焼くより美味いと横からユキシも杏に生の切り身を薦めた。
杏にはこの火の通っていない魚を口にすることはかなりの勇気を要する。なんて言ったって、この魚は皮を剥がされただけで、このまま生きて泳いでいたのだ。
「体質というのもあるから無理に食わなくてもいいがな。おい、客人に果物を持って来い」
マナカは早々に方針を転換し、杏に果物を持ってくるように指示を出し、杏は密かにホッとしていた。
「そもそもシルシュタウはおかしな民族だ。何が合うのか合わないのか、我らも分らぬことが多い」
「おかしな……とは?」
「おかしいだろう? 毒を口にしても生きて居られるなど、普通ではない」
「そんなことをご存じなのですか? 確かに、不老不死という噂は聞きましたけど……」
杏の一言にマナカは大いに驚いた顔をし、とにかくその後は腹を抱えて笑いまくる。
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