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新たに料理が運ばれてきた。湯気が上がる料理は明らかに鳥だった。魚とは違い、こちらは焼いてあるのを食べるらしい。くし刺しにされているが鳥と一目でわかる姿かたちをしていた。それでも生ではないだけで食欲がわくのだから、人間とは勝手な生き物だ。
「そういえば、チチ鳥と言うのがいるだろう?」
マナカは黙って考え込んでいた杏にそう切り出してきた。
小さくて地味な鳥。食用にも向かないチチ鳥は林殿村周辺にしか存在していない稀少な鳥だ。
「あれは附子を食っていると知っているか?」
あんなにいつでも近くにいた鳥だったが、杏はチチ鳥について何一つ知らないと思い知った。思い返せば身近に居すぎて、何を食べているかなど知ろうともしなかった。地味な茶色の姿、いつでもどこでも居て、杏にとってはいつもの風景の一部だったので興味を引くような対象ではなかった。
「そうなんですか……、附子を」
チチ鳥を必死になって思い出そうとしていた杏を「何も知らぬのだな」とユキシは馬鹿にした様子だった。
「つい最近まで蛸が何を食っているのかしらなかった癖に」
マナカに横から突っ込まれると、ユキシは拗ねて鳥をわざと荒々しく取り上げてがぶりついた。
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