附子

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「その昔、シルシュタウはチチ鳥を食っていたという話だぞ。きっとチチ鳥の体内に残る毒を長い年月とり続けたことで、シルシュタウたちも毒に強い体になったのだと我々は考えている」  噛っていた鳥を見て、顔を歪めたユキシはゆっくりとそれを口から出した。 「我々もチチ鳥を食い続ければ毒に強くなるのだろうか 」  質問しながらユキシは串に刺さった鳥の足を持ち上げてみたりする。 「どうだかわからんなぁ。  チチ鳥はシルシュタウの里の近くにしか生息しておらんし、手に入れにくい。相当長い間食べ続けなければ体質など変わりようがないだろう」  話の途中でマナカに、それは(チィ)だ。と、あっさり言われて、ユキシは再び鳥を齧り出した。 「今は村では一切食べておりません。私は一度もチチ鳥を口にしたことはないはずです」 「それは唐逹帝国が建国され、治世が落ち着き出した頃に、シルシュタウが暗殺集団であると言う暗い歴史に終止符を打ったからだと思うぞ。  長年培った体質を変えるまでには至らなくても、維持しようとする努力は終わりにしたのだろうよ。  むしろ、普通の人間になりたくてチチ鳥を食うのを辞めたのかもわからんが」  そんな理由があったのか。杏は呑気なチチ鳥を思い浮かべて、説明された内容や過失が、かなりの部分で正確な気がして気持ちが暗くなっていった。
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