附子

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 香霧は雲の流れをジッと観察していた。風が強くなってきており、ひとたび瞼を下ろせば見て居た場所には同じ雲は存在しないありさまだった。 「香霧様、お呼びでございますか」  半日山を捜索していた秀零を呼び戻したのは香霧だった。予定では残り半日も杏を探し林殿周辺を隈なく捜索するはずだった。 「ここから早馬で帝都まで何日かかる?」  早馬とは『鷹』たちの使う伝達手段で、馬を何度も入れ替え休みなく目的地に向かうやり方だった。 「早馬であれば丸一日あれば。途中馬を二回ほど交代させねばなりませんが」  頷いた香霧は振り返り「では、私は数人の共を連れて帝都に戻る」と宣言する。秀零は香霧の言葉に絶句したのち(かぶり)を振った。 「数人でとはさすがに危険すぎます」 「人数が多いと身動きがとりにくくなる。  空を見てみろ、雲の動きがやたらと活発になってきている。星読みの予言より嵐が遅くなっているから、今度の嵐は大きいぞ」  秀零も同じように空を見上げたが、もう一度頭を振る。 「尚更このまま帰るのは危険です」 「本格的に嵐が来てしまったら、どこかに宿をとるさ。  数日後に大事な祭事があるのだ。それに間に合わないと帝から大目玉だ」  皇族にとって祭事はなにより重きを置く政の一部であり、それは秀零にもわかるのだが、もう一度空を仰いでため息を吐いた。 「香霧様はもう決めたという事でしょうけれど……」 「そうだ。  それで杏たちの行方や手掛かりはどうだ」
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