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「山小屋を見つけ、余暉の物らしき品を発見いたしました。様子からいって、慌てて小屋を出たとしか思えません。小屋を中心に人を散らばらせた結果、馬を一頭見つけました。これも余暉が何らかの理由で野に放したという事だと思います。さすがに野生の馬はおりませんし」
状況は極めて良くないと言える。旅の物をほとんど手放さねばならない状況に陥ったということなのだから。それが香霧一行の到来が理由ならまだしも、そうではない可能性が高い。馬を使わなかった理由がそう結論を導き出していた。急いだとしても普通なら馬を使うはずで、それをしなかったのには何か理由があるはずだ。
「……お前はこのまま残って捜索してくれ。嵐が去ったら帝都に戻って来い」
「承知いたしました」
二人の見上げている空に次々と雲が流れ込んできて、そして去っていく。髪が靡き、服もパタパタと音を上げていた。
「何事もないと良いが」
香霧が漏らした言葉に秀零も「はい」と答えるしかできなかった。今は杏と共に余暉が姿を消していることが望みだと言っていい。余暉ならばきっと守り切ってくれると秀零は信じていた。
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