附子

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 四方はゴツゴツとした粗削りな岩肌、寝台やら長椅子などはそれなりに豪華であったが、部屋の雰囲気から言ったら牢に近い。  杏は危険を感じるほどの轟々という風に身を縮め、寝台の上で膝を抱えて座っていた。  岩壁でこれほどの音が響くのだから、外はもっと激しいのだろう。そう思うと、島国で初めて体験する嵐のすさまじさに(おのの)くばかりだった。  この部屋に連れて来られてから既に二日が経過しており、その間食事の世話や体を拭いたり髪を洗ってくれるために幾度か人が現れただけで、杏は孤独を極めていた。 (嵐じゃなかったら……きっと耐えられたわ)  心の中で呟くがそれが強がりであることは杏自身よくわかっていた。外の景色も見えないこの部屋で一人閉じ込められるのは想像以上に苦痛だった。時折、一生このままだったらなどと言う思いに駆られて泣きたくなったりもした。  一度体を拭きにやって来てくれた女に声を掛けたが「ここは静かでうらやましい。身の危険を感じるほどの雨がふっておりますから」と外の様子を説明してくれただけで、会話は長くは続かなかった。  戸は頑丈な石でできていて、開閉が重そうだった。食事を運んでくれるのは大抵男で、それでもかなり難儀そうに片手で食事の盆を抱え、もう片方の手や体を使って戸を押し開ける。  今日も男が入って来て、この人は珍しく後ろ手で扉を閉めていた。 「杏。大事ないか」  杏は声を聞いてとっさに寝台から飛び降りていた。 「……余暉!」
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