附子

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「お前の事は守ってやると言った。こんなところで殺されたりしたら、俺の面目丸つぶれだしな」  減らず口の余暉であっても、身内が居るという事は心強いことだった。 「余暉、一緒に食べましょう。いつも量が多いし、ねぇ?」  杏が持ってきてもらった料理を見たまま余暉を誘うと、余暉はガタンと椅子に腰を下ろした。これは同意ととって問題ないと杏は判断した。 「呑気で羨ましいな。お前というやつは……」  それでも余暉が口の端を上げ楽しそうなので、杏は急いで席に着き、余暉の気が変わらないうちに杏から食事をとり分けた。杏が魚をあまり好んで食べないのが伝わっているようで、今日届けられた分も昨日持ってこられたものも、鳥や果物が一人分にはとてもとても多すぎる量が盆に載せられている。 「しかし、お前がこうやって拉致されたお陰で色々なことを知ることが出来た」  杏から受け取った皿を自分の前に置くと、余暉は鶏から手をつける。 「シルシュタウが不老不死でなく、毒に耐性があるだけだというのは特にこれまで聞いた噂の中で一番真実味があった」  杏も俄然食欲がわいて、果物に手をかけたところだったが、動きが止まった。 「え? 聞いていたの? どこに居たの?」  伊乃国の建物はいい意味で開放的で、悪く言えば開けっぴろげなのだ。潜んで話を聞けるのかと疑問を感じたのだった。 「屋根裏だ。なかなか用意周到だったぞ。夜目が利くから見えたが、屋根裏には多くの罠が仕掛けてあった」
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