附子

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 お前なら直ぐに捕まるだろう。と、要らない情報まで付け足して話してくれる余暉は、いつになく饒舌だと言える。 「それで思い出したのだが、お前の持ってきた短剣には毒が巧妙に仕組まれていた。人を刺したりすると柄から毒が滲み出てくる。伊乃国の話を考えれば、あれは附子だろう」  杏の脳には父様の言葉が静かに流れていった。 『他人を貶めるくらいならば、自分の身を捧げなさい。』  シルシュタウが毒に強いならば、この言い伝えは短剣の使い方を示したものだったという事だ。シルシュタウならば自分を剣で刺しても死なないのだから、他人を刺すよりずっと、その後動きが取りやすくなるはずだ。何か危機に陥った際、自らを剣で刺してしまえば仮死状態になり、きっと多くの場合危機から脱するのが可能になるということだろう。 「でも、仮死状態になって例えば土葬されたり火葬されたりしたら、死んでしまうじゃない」  頭の中で考えていたことが口から出ていたことに、杏は後から気が付いて顔を上げると、余暉は笑いもせずに頷いた。 「毒に耐性があるという特性を使っていると言っても、危険な賭けであることに違わない。きっと多くのシルシュタウが命を落としたのだろうな。だから、封印したのではないか? 自分たちの過去を、呪われた運命を」
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