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(私には価値があると言っているみたいだったから)
「俺が?」
「なんでもないです! 私も余暉は運命を断ち切って、のびのび生きるべきだと思う」
余暉は更に笑みを深めて目を細めた。
「俺の場合はシルシュタウだけではないからな。自分の中に流れる忌々しい父親の血もある」
「忘れたらいいじゃないですか……。そんなこと。
余暉は余暉だもの。ムカつくこともあるけど、私はあなたが好きです」
ハハハと声を出して笑った余暉に杏はどういう訳か喜びを感じていた。こんな風に笑ったり優しい顔をしたりすることが嬉しいし、出来れば他の人にも見て欲しいとすら思う。
「香霧に聞かせてやりたい、今の言葉」
「それは駄目です!」
外が嵐であることを忘れそうだった。むしろ囚われの身で、先が見えないこともひと時忘れていた。
その後食事を取った余暉は「島国ゆえ、お前を脱出させるのは難しい。少し様子を見る。まあこの嵐だ、島から出たら海の民じゃない我々は簡単に死ぬだろう」と言い残して、姿を消した。
また一人になってしまった牢のような部屋で、杏はやっとゆっくり眠りにつくことが出来た。余暉が近くに居てくれるのはただそれだけで頼もしく感じるのだった。
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