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帝都
「香霧様! 香霧さま!」
転がるように駆け込んできた秀零を、香霧は手にしていた書物から顔を上げずに「焦っても何も変わらぬだろう。落ち着け」と、いさめた。
「余暉から連絡が来たのでございます!」
そこでやっと香霧が顔を上げる。秀零は上がっていた息を整えて、持っていた粗末な紙を恭しく香霧へとささげた。秀零の手からそれを取った香霧は落ち着いた声音で読み上げた。
「『杏様 無事。伊乃国に捕まっている。近々伊乃国より交渉を持ち掛けられるだろう』」
「鳥を使って連絡してまいりました。『鷹』である証の印も入っておりましたので、余暉に間違いありません」
鳥は途中で落とされたり、病死したりする可能性を含むのであまり重要なことは託せないが、それでも緊急時用に『鷹』たちは随時訓練した鳥を放していた。それを使いこなせるのも同じ『鷹』しかいない。持たせる書も、暗号で書かれている。緊急の際、読みこなせるよう香霧も幼少期から暗号は学んでいた。
香霧は読み終えた紙を近くの火に翳して即座に燃やす。パッと炎が上がったそれを、床石へと放ち燃え尽きた頃、足で踏みつけた。出来るだけ人の目に触れないようにするのは、暗号を守るためにも大事なことだった。
「やはり、我々ではないものに見つかり姿を消したというのが当たっていたようだな」
「はい、杏様が拉致されて、余暉が取るものも取らずに追ったということでしょう」
「これを見ろ。辻褄があうぞ」
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