帝都

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 そう言って香霧は先ほどまで目を通していた書物を秀零へと渡した。それは伊乃国からの親書で、近々交渉したい事柄があると書いてあった。それにしても強気な文面に秀零は呆れ半分で目を仰がせた。 「自信満々というか、交渉したいとは書いていますが、お前もしたいだろうと挑発しているというか何というか……」  そこで香霧も小さく苦笑する。 「そうだな。強気な態度だ。  杏を手中に収めているということもあるのだろうが、噂通り手ごわそうな相手だ」 「なんと返事をするのでございますか?」  笑いを引かせた香霧が息をそっと吐き出した。 「杏があちらに居る以上、丁重にもてなす他ないだろう。じゃないか」 「はい」  好戦的な空気が落ち着くと、香霧は僅かに嫌そうな顔をし、それを見せないように窓の外へと顔を向けた。 「雪麗はずっと杏のつもりで行くようだな。ここで杏が戻ってきたら、あれはどうするつもりなのか……」  秀零は男の姿をするようになってからは杏の侍女という立場ではなくなり、香霧に就くようになっていた。雪麗と顔を合わせなくなって清々した気持ちはあるが、残された侍女たちの気苦労を考えると素直に喜べない状況だった。
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