帝都

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「このままずっと成り済ますつもりでしょう。どうされますか?」  窓枠に手をついた香霧は嵐の後の、澄み渡った空を見上げていた。雲はなく、気持ちとは裏腹に本当に澄んでいて美しい青だった。 「雪麗を杏として、伊乃国との交渉の席に伴おう」 「その場に杏様がいらっしゃるのではございませんか?」 「そうだ。  不在だった事を公にし、雪麗がすすんで身代わりを勤めていたと言えば、交替はすんなり進むのではないか?」  異国の重鎮が並ぶ席でなら、確かに雪麗でも駄々をこねたりしないかもしれないと秀零は一度は納得した。それでも、そんなに巧くことが進むか疑問は残った。なぜなら、相手は雪麗だ。皇帝の弟を父に持ち、常日頃から自分の思うようにことを運ばせることに長けている。  いつまでも答えない秀零に香霧は「不安か」と、問う。 「はい」  そこは素直に答える秀零だった。 「どんなに裏で手を回しても、雪麗はその上をいく。ならば皆のいる所で、やるのがよいのだ。手回しなど互いに不可能な状況でいこう。  もしもそこで雪麗が醜態を晒せば、味方をしている者も愛想をつかすだろう」  投げやりに「そもそも味方をする者が居ることが解せません」と言えば、香霧は「金だ」と答えた。 「金の力だ。  そっちは帝が暁暉の周辺を一掃させて金の流れを断っている。いくら弟だと言っても、ここまで来ると目を瞑るのは無理があるとぼやいていたがな。そろそろ金の力も使えなくなってきていると思うが、果たして……」 「暁暉様側についている輩をすべて割り出すのは難しい事ではございませんか?」  香霧は振り返り、風で乱れた髪を手で適当にあしらった。 「余暉がずっと情報を流していてくれたからそのあたりは随分わかっているはずだ。  暁暉は余暉を手足のように使っているつもりだっただろうが、余暉は端からそんな気毛頭なかったと言うことだ。あれには苦しい思いをさせてきたな……。好きではないとはいえ父親をずっと裏切らせていたのだから。酷なことだ」
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