324人が本棚に入れています
本棚に追加
杏は交渉道具として連れて行くのだろうが、余暉は唐達帝國に戻るのは難しいのではないかと気が付いたのだ。
「さぁな、ここにも居られんし、終の棲家を求めてどこかへ行くことになるかもしれん」
「一緒に帝都に戻ることは出来ないの?」
「出来るわけないだろう」
連れてこられた当初は連れ帰ってくれない余暉にずっと立腹していたが、守ると断言したからと言って伊乃国までついて来てくれたのだ、気持ちはあの頃よりずっと軟化して、既に余暉を許していた。
「このままお別れなんてことにはならないでしょ?」
なかなかこの牢獄のような部屋に会いに来られないという。しかもこの先、杏は唐達帝國に連れて行かれるなら、余暉とは……。
「見届ける義務が俺にはある。
当初の予定とは違うが、再びお前をここより連れ出すのはかなり至難の業だ。勝手もわからんしな。それでも身の危険があるならやってもいいが、帝都に戻ればきっと香霧や秀零が守ってくれるだろうし」
「あんなに帝都に戻るのは危ないと言っていたじゃない。あなたが守ってくれるって、言ったのに」
余暉は小さくため息を吐き出して、眉間を指でなぞっていた。
「雪麗の事は、また別の方法でなんとかできるか探ってみるさ」
要するに余暉は帝都に行くつもりはないのだと杏は悟った。たとえ帝都に行ったとしても、もう杏とは関わるつもりはないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!