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ならばもっと良い部屋に置いてくれればよかったのにと言いたいところをグッと抑えた。
「国交が結べれば友も同然。仲良くしようじゃないか、杏殿」
困ってしまうのは杏がこのマナカという人物が嫌いではないということだった。おおらかな口調や豪快な笑い方、頼もしい人のよいな気もするし嫌いになれないのだ。
「とはいえ、そなたには箱に入っていてもらうことになるが」
「箱! なぜですか」
せっかくの好印象なのに、驚きと共に落胆する。
「贈り物として渡す予定だからだ。交渉が決裂すればそのまま箱から出さずに持って帰ることになる。連れて帰るだな。まあ、その時はユキシが欲しいというので、ユキシの妻になるといい」
港でなにやら話をしているユキシの姿が見えていた。今日は王という名にふさわしく立派な服装をしているし、なにより頭に乗せている王冠は光を受けて輝いて見えた。やはりマナカと同じように金の装飾品を身に着けている辺りを見ると、これがこの国の正装の一部なのだろう。
「それは無理です!」
「あれはあれで悪い奴ではないぞ。第一夫人はユキシに惚れ込んでいるからな。男気もあるし、若いし、悪くない」
「第一夫人?」
「妻は既に三人娶っている。だからまあ一人くらいシルシュタウが居ても問題ないという話に今朝方話がまとまった。俺は出費が増えるから要らんと言ったが、ユキシが欲しいと言えば……仕方ない」
杏は首を振って「私は香霧様の妃です。それ以外の者にはなりません」と言い返す。勝手にそんな話を進められても困るのだ。そこでマナカがハハハと豪快に笑った。
「交渉次第だ。交渉がうまくいけば返すと約束するし、駄目ならユキシの元でのんびり暮らせばよいではないか。悪くないぞ? 婦人たちは仲良くやっておる。海の幸や農作物もよく取れる。我が国で飢えることはない」
寛大な言葉の数々なのだろうが杏は受け入れられそうもなかった。杏には確固とした思いがあり、それはいつしか信念にかわり、どんなに魅力的な事柄でも譲るつもりは毛頭ない。
香霧の元へ。今はそれしか頭の中に浮かばない。
「私は香霧様の元へ戻ります。どんなことがあろうとも」
杏が買ってきたクコの実を食べてくれるような人なのだ。クコなど幾らでもあるのに、ちゃんと気持ちを掬い取って応えてくれる尊い人だ。妃でなくても、近くに居られるだけでも幸せだと思う。香霧には自ら進んで使えたいと思えるような、稀有な人物なのだから。
(でも可能なら妃としておいて欲しい……)
その為なら箱にだってなんだって入ろうと思うし、船酔いだって耐えようと、手にしていた葉をジッと見つめていた。
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