帝都

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 入口から真っ直ぐ延びる敷物。正面に帝が御簾の奥に座している。一段下がったところに香霧が座り、香霧の斜め背後に秀零が待機していた。入口より帝の鎮座する場所までは豪奢な敷物が続いていた。色は紅色、刺繍は唐草で金糸。  役人たちも入口から入って左側に十人余り座っている。そしてその反対側には伊乃国から持ち込まれた貢ぎ物と乏しき箱の数々。箱にまで拘って木箱に彫物がされている。  香霧の向かいに杏を装った雪麗が、涼やかな顔で箱を眺めていた。香霧と雪麗は敷物を挟んで向かい合っているので相当な距離があった。 「皇后は夜の宴に出るそうだ。雪麗と顔を合わせたくないらしい。  建前は皇后は宴の準備に采配を振るっているということになっている」  後ろに控えている秀零に香霧が半分顔を向ける形で事情を話して説明する。雪麗はきっと皇后に対しても無礼なふるまいを行ってきたのだろうと、秀零は事情をなんとなく察した。 「暁暉様もおいでになっておりませんが」  秀零が部屋を見回しそう問うと「一度たりともこういう場に顔を出したことはない。帝は、なんにでも口を挟もうとするあの人を疎んでいるからな」と返ってくる。 「的外れなことばかりいって、話が進まなくなるのだ。それに政は役人に任せておけば良いという考えらしい。その癖、居れば居たで口を挟むから……まあ、そういうことになる」  秀零は帝の弟君、暁暉を一度しか拝見したことがないが、一目見るなりわかったのは感じだという事だった。ふんぞり返って指で人を差し、あれこれ注文を付けていた。帝や香霧は体を鍛えているのに対し、暁暉という人はどうやら全く動かないのか、丸々と肥えていた。人伝に聞いた話だが、常に酒に酔っていて、いつでも機嫌が悪いらしい。今思うと、この親にしてこの子ありという感じがする雪麗なのだが、かつては雪麗のことも全く知らなかった。皇族とはあまりに身分違いで、細かなことなど知るよしもなかった。 (俺が『鷹』の訓練に弱音をはいたり、ただのんびり過ごしていた時、余暉はあの親子に苦しめられていたのか……)  雪麗がじっと貢ぎ物を眺めている顔を見て居たら、秀零は余暉を思い、憤りや悲しみを感じて目をそらした。余暉をどうしたら帝都に戻せるのか、今一度考えてみようと思うのだった。  隣の間に控えさせていた楽師たちが音楽を奏で始めた。京胡、坂胡、革胡、音色の違う二胡が重なり物悲しいようでいて雅な音を作り出していた。 「来たな」  香霧が背筋を伸ばすのを感じて、秀零も自然と気が引き締まる。周囲に視線を走らせていた
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