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2.
ほぼ毎日、頑張っている甲斐あって、着実に懸垂が出来る回数が増えていった。三回しか出来なかった二週間前に比べて、いまは五回。亀のような歩みだが増えている。きっと仕事もマイペースながら頑張る奴なんだろうな、と市原は頬杖を突きながら見ている。
彼が鉄棒から手を離し、スボンの汚れを払って顔を上げた。童顔の彼と目が合う。そしてそのまま、彼は市原に向かってきた。
「あの」
突然声をかけられて、硬直する市原。文句言われるのかと思いきや…
「一緒に昼ごはん食べませんか?」
「…は?」
彼は西川と言った。市原の会社から五分位離れたビルが勤務先で営業をしているという。ベンチで同じコンビニで買っていた弁当を頬張りながら、西川の話を聞く市原。
「大学でうっかり家政科に入ってしまって、周りが女の子ばかりで同性の友達出来なかったんですよねー。今の職場も九割女性で」
「何の会社?」
「女性ファッションの…」
名刺をもらうとなるほど、女性に今人気のブランドだ。
ふーん、と里芋の煮っ転がしを掴み、口に入れようとしたとき…
「だから男性の友達が欲しかったんです!市原さんに出会えて良かった!」
市原はあやうく煮っ転がしを落としそうになった。
「と、友達?お前、高校の時の友達とかいるだろ」
「他県から来たもので…ダメですか?」
子犬のような目で市原を見る。市原は独りが好きなのだ。変に気を使うくらいなら独りの方がマシだ、と思っている。だけどこんなにすがるような目で言われたら、とため息をつく。
「この公園で昼休憩の時に一緒に弁当食べるくらいならいいよ」
市原のその一言で、西川の眼が輝く。
「ホントですか?ありがとうございます!」
変なやつ、と市原は笑った。
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