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「意味はわかってるだろ。規定年齢に達していないが、規定階級での規定期間を過ぎたので、特例で特別技術課程を受講してもらう。期間は十二ヶ月。一年後には、修了試験の問題が夢に出てくるぐらい追いつめられてるぞ」 「ちょっと待ってください」蛍汰が言って、柘植は口を閉じた。  蛍汰はしばらく黙って考えた後、柘植を見た。「特別技術課程って警務特科のですか?」 「おまえは警務特科だろ」 「そうですが…」 「本来なら四月からの入校予定を、一ヶ月遅らせてもらってるんだ。どのみち、最初の三ヶ月は基礎になるから君には必要ないだろう。その代わり、基礎課程の成績が悪いと本課程に進めないから覚悟しておけ」 「ですが、聴聞で、もしかしたら免職という可能性も」 「免職させてどうする。予定はこうだ。来年、君が特別技術課程をそれなりの成績で終える。君が出した計画書を元に、SDAは正式に中等教育課程開設の認可を得る。再来年、晴れて第一期生を迎える。残念ながら初等教育課程は見送りになる。君は潜入の専門指導官として指導に当たる」 「私が出した計画書って何ですか」 「リハビリ療養中に作成し四月中に提出をする。特別技術課程を受講しながら五月から八月までに骨子をまとめ、秋の国会で法令を通す。十二月まで入隊希望者を募り、一月には結果発表をする。君は発足委員として全ての会議に出席を義務づけられている。特別技術課程は課題も多いから油断すると脱落するぞ。会議出席の無駄な二時間に、同じ課程を受けている奴らは予習復習に励むことができる。君は特例で入った分、周りの理解が得られるかどうかはわからない。会議を理由に成績が奮わなくても、きっと誰もそれに同情したりしない。それでもこれは君にとってのチャンスだと思う。挑む価値はある。特別技術課程で優秀だと認められれば、尉官昇進の道も開ける」 「あの…」蛍汰は戸惑いすぎて言葉を失っている。  柘植はそれをじっと見つめながら笑いをこらえた。自殺なんて考える暇もないぐらいに忙しくなる。目標さえ与えてやれば邁進できる奴だ。 「君はまた妬まれるかもしれないな。何だ、あいつ、ちょっと若く入ったからって特例が認められてってな。地味ないじめを受けたりするかもな。しかしそれが何だ。君は一番前を切り開くだけのことだ。後に続く者への布石となってやれ。後から来る奴は君を踏み越えていくかもしれん。そんな役目は嫌か?」 「いえ…」蛍汰は首を振った。 「私も君が治療している間、高崎清吾とのことを考えてた。奴を動かしていたものは何だろうってな。金じゃない、愉快犯とも言いがたい。ただの盲信とも言えなかった。きっとあれはある種の使命感だな。君を支えてるものと同じだ。被害がどんなに出ても、それは奴にとっては目的を達成するための軽微な損害ってわけだ。あの日、君たちは理解し合っているようにも見えた。共通の目的を違うルートで追っているようにも見えたよ。君はどう思ってる?」  柘植が聞くと蛍汰は嫌な記憶を呼び起こすように顔を歪めた。
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