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「そうかもしれません。高崎は本当は絶望なんてしてなくて、明るい未来を描いている理想家です。そこに至る手段を選ばないというだけで、自分が正しいと信じていました」 「高崎も現実を変えられると思っていたんだろう?」 「実力行使で」 「君は他力本願でな」柘植は笑った。それでも自分が努力しなければ他人が力を貸してくれないことぐらい、蛍汰もわかっていたはずだ。高崎はそこに力を貸そうとしたのかもしれない。 「今、外ではいろんな論争が起こってる。あのスイッチテロへの対策として、ああいう配布型テロへの対策や予防教育、実際に起こった場合の対処、それから全体の意識改革。子どもたちへの責任能力についての理解や法令。もちろん子どもたちの意見を聞く場も設ける検討がされている。これは君らの望んだ変化で、高崎の目的は達成されたのか?」 「達成ではないと思いますが、入口ぐらいには立ったかと」 「君も嬉しいか? 多くの被害者を出したことに目を瞑るとしたなら」 「目を瞑ることができるなら、私は高崎と同じです」  抗議をするような口調で蛍汰が言い、柘植はそれを受け止めた。今の柘植の言葉を侮辱だと取るからこそ、蛍汰はSDAに必要とされるのだ。 「最終的にどれぐらいの被害が出たんですか」 「ああ、そうか。まだ端末使用の許可が出てないんだな」  柘植は自分の端末を出した。蛍汰は少しためらってから手に取った。 「被害者数は警官、SDA隊員含めて死者全国で四十八、負傷者三百以上。表面的には落ち着いているが、まだ全体的なショックから完全に落ち着いたとはいえない。これが高崎の狙った成果だと思うか?」 「そうですね、高崎は火種を放り出して、愚かな奴らがこれからどうするか見下ろしているぐらいの気持ちだったんだと思います」  蛍汰はSDAの調査報告をいくつか見た。そして柘植を見上げる。 「長谷川はどうなりました?」 「長谷川君ね。寝てるよ」 「寝てるんですか」 「赤ちゃんが危なくてね」 「え」蛍汰は眉を寄せた。「危ないって、長谷川は?」 「長谷川君も微妙なところだね。母子ともに絶対安静。だけど生死の狭間を漂ってるわけじゃない。まだ今はどちらを選ぶかと選択を迫られてるわけじゃないからね」  蛍汰は柘植に端末を返した。心なしか表情は先ほどより暗い。この二人のつながりみたいなものはこちらが思っているよりも強いからなと柘植は胸の中で苦笑いした。 「君はまだ掟に縛られてると思うか?」  柘植が聞くと、蛍汰は顔を上げた。少し自信なげな表情に、柘植は彼が答えるより前に答えを知る。 「どうでしょう。私は長谷川が危ないなら、代わりに何でもしたいとは思います」  柘植は唇を曲げた。「何だか似たようなことを長谷川君も病院に運ばれるときに言ってたみたいだよ。カトービルの爆発が見えたみたいで、蛍汰は、蛍汰はってね。君たち、テレパシーでも使ってるんじゃないの?」 「使えません。面会は可能ですか?」  生真面目に蛍汰が答え、柘植は肩をすくめた。 「個人としてはな。君は今、公傷期間中だが、もし望めば公休が取れる。公休中にどこに行こうが、基本的には隊から規制はない。ただし聴聞前に公休が取れるかというと、これは厳しいな」 「そうですか」蛍汰は目を伏せた。「あの…広川さんはどうなりました?」
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