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予定通り三日後に聴聞の呼び出しがかかった。警務特科からクリーニング済みの制服が届いており、蛍汰はそれに袖を通した。
迎えには永瀬が直々に来たので蛍汰は驚いた。聴聞への送迎なら運転手の士官一人で充分だからだ。佐官が来る必要はない。
「おまえが面倒なことを要求するからだ」と永瀬は不機嫌そうに言った。
まだ長距離を歩ける体力はなかったが、車いすも松葉杖も断った。迎えの車が来ており、聴問会場も前と同じだから歩く廊下の距離も知れている。倒れることはないだろうと蛍汰は見積もった。
「寄り道をする」
車に乗り込んでから永瀬が言って、蛍汰は首をかしげた。「どこへ?」
「うるさい。口を閉じてろ。おまえは聴聞を受ける立場だってわかってるのか」
蛍汰は口を閉じた。永瀬は前の座席から後部座席に体を伸ばしてきて、蛍汰の頭を軽く殴った。
「聴聞でまた問題を起こすなよ」
「わかってます」
「この前もそう言って、懲罰房入りだ。覚えてんのか」
「あれは」
「言い訳するな。今日は相手がどれだけ理不尽でも『はい』って言っておけ。わかったな」
蛍汰は息を吸い込んだ。「努力します」
「おまえ、もう一回殴られてぇのか」
蛍汰は窓の外を見た。病院の敷地から車が出る。ずっと病院内に閉じ込められていた蛍汰は外の景色に目を奪われた。日差しが明るく、歩く人の服装も春めいていた。空はほんのり白っぽい青に染まっている。そして木々には薄ピンクの花がいくつもついている。
「てめぇ、無視か、矢嶋ぁ」
永瀬が怒ってまた身を乗り出した。「危ないです、少佐」と運転手が言ったが、彼が聞くわけもなかった。
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