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「智実、ちょっと待っててくれ。俺、聴聞会に出た後、すぐに戻ってくるから」 「おいおい、そういう予定じゃないんだって。矢嶋、おまえワガママ言ってるとしばくぞ」  騒がしい声に気づいたのか、慌てたように看護師がドアを開いた。「どうしました?」 「あ、すみません、目を覚ましたようで」  永瀬は蛍汰の袖を引っ張り、看護師に道を譲った。看護師はさらに慌てて智実を見て、決まった声をかけて計器をチェックし、それから医師に連絡をして慌ただしく出て行く。 「五分でいいんです、一分でも」  蛍汰が言って、永瀬は眉を寄せた。 「いや…あのな…俺が決めるんじゃなくてだな」 「お願いします。この後の聴聞は完璧にやります。絶対に下手なことは言いません。シナリオ通りにします」 「そりゃ当たり前だ。おまえの義務だ。後のことは後だ」  永瀬はそう言って看護師たちが診察具を積んだワゴンを部屋に入れるのを見た。蛍汰の服を掴み、看護師と入れ違いに部屋を出す。智実は二人の会話を聞いてかすかに笑っていたように見えた。  永瀬はエレベータで二人きりになってから、蛍汰の頭をひっぱたいた。蛍汰は頭を痛がり、永瀬はちょっと強く叩きすぎたかなと思ったが、同情はせずに厳しい表情を作り続けた。 「バカか、おまえは。一分戻って何をする気か知らんが、自分の立場を考えろ。おまえはそこらの十八のガキじゃねぇんだぞ。能力を買われて引っぱり上げられてるんだろうが。シャキッとしろ」  蛍汰は頭を押さえたまま永瀬を見た。クソ、と永瀬は胸の内で舌打ちした。同時にただの十八だなと思わせる思い詰めたような目を見返せなくなる。自分の若い頃を思い出し、その苦みも甘みも飲み込んで、永瀬はぐっと唇を噛んだ。しょうがねぇな。 「申し訳ありません」  おざなりに蛍汰が言って、永瀬はフンと無視をした。エレベータが一階に到着し、蛍汰は少し落ち込んだまま永瀬についてくる。永瀬はそこで蛍汰に声をかけた。 「勢いに任せて好きだって言っても、長谷川はそれこそ覚えてないかもしれないんだぞ。今は起きたばっかりで記憶も曖昧だ。おまえだってそうだったろ。もし告白したいんなら、ちゃんとムードを作ってやれ」  永瀬は蛍汰を後部座席に蹴り込みながら言った。後部座席のドアを閉じ、自分は助手席に勢いよく座る。運転手が何の話だと目を丸くしている。永瀬はルームミラーを自分の方に向けて、後ろの蛍汰を見た。 「ムードですか」蛍汰がまったく意味がわかっていない顔で聞き返す。 「当たり前だろうが。こういうのは俺に任せろ。女はサプライズが好きだからな。ちょっといいネタを考えてやる」 「サプライズ」蛍汰はつぶやいた。  永瀬が運転手に目で許可を出し、戸惑いながらも運転手は車を出した。車は病院の駐車場を出て、SDA本部へと向かう道を走り始めた。病院脇には桜の並木があった。  蛍汰は窓の外を見ていたが、ふと思い出して前を見た。 「少佐、髪型変えました?」 「はぁっ?」永瀬は振り返って蛍汰を見た。 「何か…ちょっと…雰囲気が」 「うるせぇ、黙ってろ」  永瀬はそう言ったものの、このクソ潜入隊員めと心の中で悪態をついた。
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