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 蛍汰は聴聞を上手く切り抜けた。永瀬も柘植も発言権のない末席でそれを見ていたが、時折蛍汰が自分たちを見るので、そのたびに二人は小さく首を振って彼を止めた。すると蛍汰は明らかに不承不承という体で質問者の望み通りの答えをした。  シナリオ通り、計画は多少無理もあったが、もしも誰も手を打たなければもっと酷い結果になっていたであろうと結論が出て、それが正式に公式見解とされた。蛍汰は不器用ながらも上層部に当時の状況説明をして、今後の見解も述べることができた。蛍汰が退席を求められ、聴聞内容がまとめられて議論が終わり、ようやく散会となったときには柘植も永瀬もぐったりと疲れていた。 「出来の悪い息子の参観日に来た気分です」  永瀬が言うと、柘植は分厚い書類ファイルを重ねながら笑った。 「まだ終わってない。矢嶋君はこの後、会見らしいよ」 「え」永瀬は眉を寄せた。「大丈夫ですか、リハしました?」 「するって言ってたよ。今頃、裏でしてるんじゃないかな」  柘植はファイルを持って席を外した。永瀬も自分の書類を持って続く。 「お騒がせしましたって頭下げさせるんでしょう? 大丈夫かなぁ。あいつの目は雄弁だから映像流されるとバレますよ。反省文でも書かせてネットで出すぐらいでいいのに。会見して炎上しても知りませんよ」  柘植は苦笑いで心配顔の永瀬を見た。「部下思いな上官だね。理想の上司だ。そんなに心配なら見ておいでよ。矢嶋君も安心するんじゃないかい?」 「べ、別に。あいつもガキじゃないんですし」  永瀬は慌てて否定した。柘植の笑みが、まるで自分が蛍汰を過保護にしているような言い方だったからだ。心配なんてしてない。  ふふんと柘植が笑って廊下を行き、別の佐官に声をかけられて立ち止まった。永瀬はその横を通過し、自分の執務室に戻った。とりあえずパソコンを立ち上げて、SDAが持っている動画放送チャンネルを見る。チャンネルは、今も穏やかな広報用のイメージ動画を流していた。SDA隊員が街で迷子を世話したり、高いところの風船を取ったりしている。いやいや俺たちの仕事はそれじゃないだろうと永瀬は思うが、一般の国民が身近に感じている隊員は哨戒隊員だから、こんなイメージなのかもしれないと諦める。  イメージ動画が中途半端に終わり、紺色の画面に白い文字が出た。『緊急会見放送』と固い文字が並ぶ。永瀬はゴクリと唾を飲んだ。時計を見ると午後三時だった。きっかり三時、紺色の画面は会見場に切り替わった。マイクが並んだ机が見える。端から人の姿が現れ、永瀬は思わず拳を握った。  最初に入ってきたのは警務特科副長だった。それから科長、本部副長、本部長と続き、広報科長、担当広報官の後、最後に蛍汰が入った。蛍汰が見えた途端、集まっていたメディア関係者が沸き立つのがディスプレイ越しにもわかった。蛍汰は聴聞時と同じく制服姿で入室し、真っ直ぐ前を向いてカメラを見た。フラッシュが点滅し、永瀬は前回の会見を思い出して不安にかられた。心なしか蛍汰の目も泳いでいるように見える。  並んだ全員が何の合図もなく揃って礼をした。蛍汰が遅れることもなく、永瀬は安心する。
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