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「二月の都内及び主要都市で発生したテロ事件に関する報告を行います」  広報官が言って、全員が席に着いた。そこから十数分は退屈な報告だった。永瀬が聴聞で聞いた内容とほぼ変わらない。その間、蛍汰はじっと手元に配られた書類に目を落としていた。背筋は伸び、おそらくは指導された通りの行動なのだろう。一度も前を見ることがない。  永瀬がいつ終わるのかと固唾を飲んでいると、広報官は書類を読み上げるだけ読み上げると報告を終えた。そして蛍汰の方をチラリと見る。蛍汰はそれを合図に前を向いた。待っていましたとばかりにカメラが蛍汰に寄る。 「現場担当官である矢嶋曹長に替わらせていただきます。なお、矢嶋曹長は今も治療中であり、一時外出での会見ですので、負担軽減のために質疑は控えさせていただきます」  広報官が先に手を打った。永瀬はうなずいた。それがいいだろう。蛍汰は立ち上がって頭を下げた。 「このたびは大変申し訳ありませんでした」と彼が言い、永瀬はそのつむじを見た。  蛍汰が顔を上げ、再びフラッシュ。それと同時にパチパチと拍手が聞こえて永瀬は耳を疑った。音は画面の中から聞こえている。思わず回りを見てしまった永瀬は、自分の横や後ろに同僚や部下がいるのに気づいて驚いた。ニヤニヤ笑っている者、心配そうな顔の者といろいろだが、警務特科のメンツのほとんどは蛍汰の会見に興味をそそられたようだった。  蛍汰は小さな拍手に動揺したようだったが、気を取り直して与えられた台詞を暗唱した。 「多くの被害を出しながら、テロ首謀者の確保に至らなかったことをお詫びします。また、私の救出に多くの時間と経費をかけていただいたことにも感謝いたします。皆様のご理解のおかげで、高度な治療を受けることができ、命を救われたことを受け止め、今後も公務に励み、誠心誠意、皆様の暮らしを守ることに努めたいと思います。私はまだ未熟であり、今回いただいた多くのご意見を真摯に受け止め…」  蛍汰はそこで息をついた。疲れたのか、肩で息をしている。それから再び顔を上げてカメラを見た。 「今回、いただいた多くの意見を真摯に受け止め、成長の糧とさせていただく所存です。ありがとうございました」  言い終わった、そんな顔で蛍汰はふと表情を緩めた。それを見て永瀬は苦笑いした。よしよし、そのまま終わってしまえ。蛍汰が再び深い礼をして腰を下ろす。 「矢嶋曹長」  やはり記者席から手が挙がる。しかし広報官は首を振った。 「質疑は行いません」 「一言で結構です。今回、多くの同年代がテロに参加し、逮捕されたことについて、どう思われていますか」 「質問は受け付けません」  わぁわぁと記者と広報官が言い争う。蛍汰はそれを他人事のように興味なさそうに見ている。 「退席します」と広報官が蛍汰を顎で促した。蛍汰はゆっくりと立って、ゆっくりと外に出る。記者たちも我先にと外に出て、蛍汰にそれぞれ質問を投げかけた。中には罵倒で気を引こうとする者もいた。蛍汰は心を乱さず、警備兵に守られながら、押されたり髪を掴まれかけたりして迷惑そうにしていた。  そこでSDAの公式放送は終わった。が、民間のネット放送はまだ続いていた。永瀬は並行して開いていた民間チャンネルを見た。 「質問には書面で答えます。資料の末尾にあるアドレスまでお送り下さい」  広報官が怒鳴るように言っていた。
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