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 SDAの内部では、清倫塾に関係した隊員がいないかどうかの調査が始まっていた。これまでに何度かあった内部手引きがないと不可能に思える事象についてや、蛍汰自身が受けた不審な電話の相手なども調査継続中だった。それについては蛍汰は証拠提供だけを求められ、検討会議には参加させられなかった。だから調査がどのように進み、どのように決着したかを知らない。しかしながら関係した人間として、警務特科長に呼び出しを受けて、会議の後の結果報告だけは内密に伝えられた。口裏を合わせよという命令だと蛍汰は理解した。  高崎清吾の死をもって清倫塾は解体、そしてSDA隊内には清倫塾の関係者はいないというのが公式見解となるようだった。ただし引き続き調査は継続中。蛍汰自身はそれについては何も知らないと答えることが義務づけられた。蛍汰はそれに同意し、これにそぐわない情報を漏らさないという誓約書に名前を書いた。違反すると免職だという脅迫も聞いた。  誓約書にサインしてからしか、特別技術課程の受講を許可されないことになっていて、そんなものがなくても蛍汰は口を開くつもりはなかったが、とにかく上は蛍汰の爆弾発言を心配しているようだった。過去に会見でやってしまっているので、蛍汰としても抗議しにくい。大人しくサインをして従っていれば問題はないようだったのでそうした。  警務特科長の部屋を出ると、浜松が廊下で待っていて蛍汰に気づくとパッと顔を上げた。彼は今日一日、蛍汰の付き人のように世話をしてくれるらしい。 「うまくいきました?」  浜松が言って、蛍汰は戸惑いながらうなずいた。うまくいかない可能性というのもあったというわけか。それがどういった状況なのか自分では想像しづらかった。 「特例許可いただきました」  蛍汰が言うと、浜松は自分のことのように喜んだ。 「良かったです。曹長とお別れするのは寂しいですけど、名誉なことですもんね。頑張ってください」 「浜松三曹みたいな方がいるといいんですが」  蛍汰が言うと、浜松は目を丸くした。蛍汰はそれを見て笑った。 「柘植少佐が脅すんです。特例だからまたいじめられるぞって。嫌だなぁと思って。浜松三曹とか、広川さんみたいな方がいると楽なんですけど」 「大丈夫です。矢嶋曹長の目一杯ぶりは、誰が見ても好感度高いですから」 「それは私に余裕がないってことでしょうか」  蛍汰が冗談めかして言うと、浜松は慌てて否定した。 「違うんです。曹長のは本当に好感度が高い空回りなんです」 「空回り」蛍汰は笑った。今だから笑えるが、ちょっと前なら落ち込んで屋上に走ってたなと思う。 「いや、違います!」浜松はさらに慌てて否定する。「違うんです、違うんです。曹長は見ててこっちも頑張ろうって思える感じなんです。手の届かない憧れじゃなくて、隣にいる元気な…」 「部屋を片付けに行きたいんですが、いいですか?」  蛍汰は浜松のフォローを切り上げて言った。浜松も慌てて従う。まだフォローの言葉は口にしていたが、蛍汰は苦笑いで過ごした。来週の神奈川行きまでにやっておかなくてはいけない準備が山ほどあった。  そういった『やるべきこと』をやっていくと、あっというまに時間は過ぎた。何とか今日が締め切りと言われた書類を提出すると、もう消灯間近だった。明日は広報室からの要請でメディア取材があるらしく、付き人のようになっている浜松が朝から迎えにくるという話で、蛍汰は憂鬱な気持ちで眠った。
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