第14交差点 出発(たびだち)の前に

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 翌朝6時きっかりに、一晩過ごしたそこを出た。  冬の朝、まだ白んでさえいない空の下を、私と樹深(たつみ)くんは駅へ向かってゆっくり歩いた。  手は、指を絡め合って恋人繋ぎ。もうすぐ、今度こそ離さなきゃならない。  樹深(たつみ)くんは、ホームまで一緒についてきてくれた。  下り線だからホームには私達以外いなかった。  始発までまだ、少し時間がある。  自販機で缶コーヒーを買って、ベンチで二人で飲んだ。 「怒られない? …朝帰り」 「んー…ふふ、多分ヘーキ」 「帰ったら、ちゃんと寝てよね」 「樹深(たつみ)くんも、飛行機でちゃんと寝てね?」 「りょーかい。  …あ、始発来た」  発車時間の数分前に、電車がホームに入ってきた。 「…ほら、乗りな、寒いから」 「…うん」  電車に足を乗り入れる。まだ、電車は発車しない。ドアは開かれたまま。電車とホームの境目で、私達はまだ手を離せない。 【まもなく、○番線から電車が発車いたします】 「樹深(たつみ)くん、手、離さないと」 「分かってる」  絡めた指がゆっくりほどかれて、完全に離れた…  その時。  樹深(たつみ)くんが、私のジャケットの袖をクイッと引っ張って…唇を重ねた。  プルルルと発車を知らせる音と、【閉まるドアにご注意下さい】というアナウンスが流れている間に、 「勇実(いさみ)。  大好き。  あいしてる。  ──いってきます」  唇をくっつけたまま、樹深(たつみ)くんが言った。 「…っ、樹深(たつみ)くん! いってらっしゃい!」  樹深(たつみ)くんが一歩下がって、私がそう叫んだと同時にドアは閉まって、電車はゆっくり発車した。  ドアに張りついて、ホームを見た。樹深(たつみ)くんがどんどん小さくなって、見えなくなった。駅も、見えなくなった。  私はドアのすぐ横の手すりにうずくまって、目を臥せった。  ポロポロと…涙が落ちる。  忘れない。  樹深(たつみ)くんの体温。  樹深(たつみ)くんの感触。  私に刻み込んでくれた全てのコト。  樹深(たつみ)くん、大好き。  樹深(たつみ)くん、あいしてる。  私もがんばるから。  いってらっしゃい。 …
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