第12交差点 ふたり寄る夜

7/11
前へ
/167ページ
次へ
勇実(いさみ)」 「え…?」  しばらくの沈黙の後、ふいに名前を呼ばれて、ドキッとした。  記憶を辿ってみる…樹深(たつみ)くんが勇実(いさみ)と呼び捨てしたのは、図書館で逢った時と、夏に一緒に歌った時。この二度だけだ。 「勇実(いさみ)。いい名前だよね。  もしかして、おばあちゃんが付けてくれた?」 「う…ん。よく分かったね。  ほんの少しの勇気が、実を結びますようにって…」 「フフ…そっかぁ…」 「樹深(たつみ)…も、いい名前だよ?」  ここで、やっと視線が絡み合う。  ちょっと見つめ合ってから…樹深(たつみ)くんはふっと笑った。 「そう…? どうなんだろうね…由来なんて聞いたコトないけど…木みたいに、どっしり構えろ! ってコトなのかね?(笑)  でもね…タツミって付けたいって言ったの、実は姉ちゃんだったらしい」 「えっそうなんだ」 「そう…  姉ちゃんは…俺の事、ずっと気にしてたなぁ…自分の事よりも…  樹深(たつみ)樹深(たつみ)の、やりたいことをすればいい…って」 「そっか…いい…お姉さんだね」 「フフ…そうかな…ありがと…  多分ね…空のずっとずっと上の方で、喜んじゃってるよ」  視線を、私から窓の外に移した樹深(たつみ)くん。つられて私も、窓の外を見やる。  もう少しでまんまるになる月が、とても明るくてきれいで…  二人で、月を仰いだ。  私…やっぱり、マッサージの勉強を続けたい。  きっと、空からおばあちゃんが見ててくれる。  いつか胸を張って、報告できるように…  私の決意と、しんと冷えた部屋の空気が、静かに混じり合った。  ──どのくらい、時間が経ったんだろう。  うつらうつら…眠くなってきた。樹深(たつみ)くんの肩に掛かる負荷が、だんだんと大きくなる。 「イッサ? 眠い?」 「う…ん。ゴメンネ…久々に…眠気が…」 「いいよ…向こうからお布団運んでこようか?  …イッサ?」 「……」  私の意識が落ちた。  こんなに心から安心して、まどろみながら眠りについたのは、本当に久しぶりだった。 …
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加