第12交差点 ふたり寄る夜

10/11
前へ
/167ページ
次へ
(次、聴いて)  そんな風に読み取れた、樹深(たつみ)くんの口パク。  自転車に跨がったままこくりと頷くと、樹深(たつみ)くんの視線が外れた。 「えー…最後になりますが、一曲、短いんですけど新しい曲、聴いて下さい。  曲名は…【名前】」  パチパチと拍手が飛び、しんとなったところで、樹深(たつみ)くんが歌い始めた。  ♪この世の生を受けたあなたに  ♪一番最初のお守りをあげましょう  ♪沢山沢山考えました  ♪沢山沢山祈りました  ♪どうか一生あなたを  ♪守ってくれますように  ♪ふとした時に思い出してみて  ♪いつだか話した  ♪そのお守りの意味を  ♪あなたの力になれたらいいな  ♪あなたにずっと寄り添えたらいいな  ♪いつも空から見守っています…  まだ…続いているみたいだったけれど…私は人だかりからそっと離れた。  カッシャン、カッシャン、カッシャン…キィッ。  樹深(たつみ)くんの声とギターの音が微かに聞こえる所で、私は自転車を止めた。 「…うう…っ」  涙が落ちる。ボタボタボタ。拭っても拭っても出てくる。追いつかない。  おばあちゃん、見ててね。私、がんばるから。  泣くのはもうおしまいにするから、今だけ、涙止めなくていいかなぁ。  樹深(たつみ)くんの歌は  樹深(たつみ)くんの声は  …やっぱりズルいや。 …
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加