36人が本棚に入れています
本棚に追加
「おっ勇実ちゃん、いいところにきた。こっち手伝って」
カウンターの奥から、大将の岩見沢さんが私に声を掛ける。
「あれっ、今日はずいぶん早い仕込みじゃないですか?」
「お得意さんの所へ出前さぁ。勇実ちゃん、どんぶりのラップ頼むよ」
「りょーかいです」
私はカウンターの切れ目の扉を持ち上げて、厨房に入った。
「おす、勇実」
「あ、元ちゃん、お疲れ様ぁ」
大将の息子さんの元ちゃんがせっせとどんぶりに麺とスープを注ぎ、具を乗せていく。
私はそれにピッタリとラップをして、さらにどんぶりのフチに輪ゴムをかける。最初は下手っぴだったけど、うん、今は上出来。
15食のラーメンが並んで圧巻。
「元! とっとと出前に行ってこい!」
「うるせえよ親父! 今こうして準備してるだろうが」
元ちゃんは大将に大声を飛ばしながら、おかもちに準備の出来たどんぶりを手早く入れて、配達用のスクーターに次々と吊るしていく。
「あー勇実。俺のビール、キンキンに冷やしといて」
ヘルメットを被りながら元ちゃんが言った。
「いいよ。元ちゃん安全運転でね、頼むよ?」
「うりゃっ」
「ぎゃっ。いったぁ、何すんのよっ」
突然の元ちゃんのデコピンを食らって、一瞬星が出た。
「うひゃひゃ、相も変わらず弾き甲斐のあるオデコだこと」
「もう、色々飛んじゃうからやめてよね。私、今覚える事沢山なんだからさぁ」
ポンパドールでご開帳のオデコをさする。赤くなってないでしょうね?
「そうでした。それじゃ、行ってくるわー」
ケラケラ笑いながら、元ちゃんは出前に出掛けていった。
…
最初のコメントを投稿しよう!