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孵化
二千二十年四月一日ーーー
全ての人が上に苦しまなくなり、貧富の差がなくなったこの地球で。
全ての国が同時にある発表をした。
ーーー人間一人にドラゴン一頭。
自分だけのドラゴンを育成し、戦おう。
「宅配便でーす」
「うぉおおおお!やっときたぁ!」
昨日発令されたドラゴンマイナンバー制度。
それに心踊り、昨日から夜も眠れなかったのだ。
宅配便のお兄さんから、少し大きめのダンボールを受け取ると、マッハで部屋に戻り段ボールをそっと置く。
ガームテープを外し段ボールを開けると、幾つにも重なった緩衝材が顔を出した。
このプチプチ好きなんだよなぁー。
潰すと訪れる音と爽快感がたまらない。
………が!そんな事はどうでもいい!今はプチプチよりドラゴンだ!
緩衝材をどかすと、そこには三十センチ程の大きな模様の入った卵が入っていた。
「かっけえぇぇぇ!!!!」
ドラゴンの卵って一個一個にこんなカッチョいい模様入ってんの?!俺の厨二病心くすぐられるんだけど!
「写メとんなきゃ!俺のメモリアルに永久保存だよ!」
そう言って俺はスマホのカメラアプリで写真と表示されている所を長押しする。こうするとなんと連写ができるのだ。
「うひょおぉぉおおおっ!」
この写真は俺の墓場に一緒に入れて貰おう…。
取り敢えず写メ撮ったはいいけど、これどうするんだろ?
……ん?卵の横になんか紙あるぞ。
「えっーとなになに?…この卵は段ボールを開けた後、五分後に孵化します?…ってもう五分経つじゃん!」
俺は視線を紙から卵に移すと、卵の上の方に小さな亀裂が入っていた。
「うぉおお!世紀の瞬間だよ!動画だ!動画!って俺のスマホどこいった?」
おいおいおいスマホが無いと動画撮れねぇじゃねえか!何処やったけ?!えっと確か…さっき写メ撮って興奮して、スマホぶん投げて…ってあぁ!?
さっきぶん投げた方を見ると、そこにはバッキバッキに画面が割れたスマホが横たわっていた。
くそっ!こうなったら生まれる瞬間を一分一秒見逃さないよう、瞬き無しで見守ってやるぜ!
ドラゴンの卵に入った亀裂はどんどん広がっていき、やがて卵に出来た穴から、小さな小さな頭が出てきた。
「うぉおお!頑張れ!」
右手、左手と頑張って卵から出てくるドラゴンの小さな体。
その小さな体で君は今、試練に立ち向かっているんだね。疲れてヘロヘロになっても、生という戦利品を勝ち取るために…。
気づけば俺は泣いていた。
目からボロボロと大粒の涙が溢れて、前がよく見えない。
ダメだ。俺はこの子の一生を見届けると決めているのだ。一挙一動を見逃してはいけない。
目をこじ開けろ。俺より小さく辛い試練を受けているこの子が頑張っているのだ。
「…っ頑張れ!打ち勝つんだ君ならできる!」
卵の穴はどんどん拡がっていき、ドラゴンは遂に数十分の格闘の末、孵化する事に成功した。
「…ズズッ、よく頑張った!」
「ピュイー!」
「そうだ、名前をつけなきゃな…。ルークってのはどうだ?」
俺が昔好きだった戦隊ヒーローの名だ。そのヒーローは誰よりも小さいのに、誰よりも逞しく、強い。そんなヒーローだ。
「ピピュイー!」
「お!気に入ってくれたか!それじゃあこれからよろしくな、ルーク!」
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