帰るのを忘れたうさぎたち

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てえへんだ。てえへんだ。 どうしたってんだ。てんじ。 村の長老が金なくしちまったんだって。 金?金って、うさぎ村の有り金ぜんぶの、黄金の金貨? 紐で体にくくりつけていたのに、巾着の紐、いつの間にか切れてたんだって。 そりゃ大変だ。 今、みんな、大騒ぎになっているよ。 じゃあ、おいらたちも、探さなきゃ。 そうなんだ、てんじも悠長に、木の根を食べてないで、手伝ってくれよ。 よっしゃ。きのべえも、のんきに砂糖きびすすってないで、そのへんを探せ。 わかった。 わあ。おいらは、食べてない。 お前の手にはしっかり、砂糖きび。いつでもまた食べようと思ってるだろ。 食べてない。 わしだって、食べてない。 さっき食べてた。今さっきまでしっかり見てた。 探すんだ。 あっ。探すんだった。 忘れるな。 誰が忘れるもんか。忘れちゃいけない。 てえへんだ、てえへんだ。てつじ。 なんだ? 金がない。 さっき聞いた。 てえへんだ、てえへんだ。きのべえ。 なんだ? 金がない。 もう知ってるよ。 てえへんだ、てえへんだ。 てえへんだ、てえへんだ、金がない。 村の大切な金がない。 金がなければ、どんな強面なうさぎも無一文。 すってんてんのうさぎなど、格好悪くて死んじまう。 村の大切な財宝が失われては駄目なんだ。 てんじも、探した。 きのべえも探した。 草の根分けて、森の木登って、石ころ蹴飛ばして。 うさぎ村の白いうさぎたちは、みんな必死だ。 うさぎ山はてんやわんや。 草やぶから、飛び出す。 崖をころげ回る。 花畑を走り回る。 みんな、何を探しているのか忘れるほどに。 やがて、黒炭色に閉ざされた夜闇の中に、黄色くて、黄金色に輝く丸いものが浮かび上がった。 「おお、きのべえ。金貨だ」 てんじは、大空に浮かび上がる黄色い天球を体を伸ばして眺めた。 「ほんとだ、黄色い、黄金色の、まあるい、金貨だ」 山間から浮かび上がったのは、満月。 年に一度、最大になる見事な満月だった。 「良かった。見つかったじゃよ。みんな、探すのを止めよ」 村の長老も、てんじもきのべえも、みんなもしばし、見とれた。 帰るのを忘れたうさぎたち。 今日はどこで、何をしているのやら。
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