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1:千ひろか美紀か
平成X年、麗らかな春の日に私は生まれた。
火曜日、午後1時半、体重は3222g。
全身麻酔の帝王切開で生まれた私は、生まれてすぐ母に会っていない。
私が母と初めて会い、腕の中に抱かれたのは生まれてから1週間後のことだった。
これにも理由があって、普通であれば下半身のみの麻酔で行うのだが、母自身も初のお産で緊張していたのか、はたまた体調的なものなのか分からないが、麻酔が効かなかったらしい。
そのため全身麻酔に切りかえ、手術を行うことに。
全身麻酔のため、私が生まれた時に母に意識がある訳もなく、親子初の対面は先延ばしにされたのだった。
手術後、母は熱を出し、私とは隔離されることに。
そんなこんなで初めてきちんとした形で会えたのは1週間後だったという訳である。
生まれて初めて来る一大イベントと言えばやはり名前決めだろう。
私の名前の候補は、母が考えていた「千ひろ(ちひろ)」、父が考えていた「美紀(みき)」だった。
結果から言うと、母がどうしても譲れないとなり、「千ひろ」になったのである。
「だって、昔嫌いな人に美紀って名前の人いたから。しかも美紀って名前、お高くとまってそうだし、性格キツそうじゃない?」
とつい最近 母がこぼしていた。
私としては美紀という名前に正直憧れはあった。
小学生の頃「み」と名前につく子は可愛い、だなんて噂が広まったこともあり、羨ましいと何度思ったことか。
美紀の話はこれくらいにしておこうか。
そもそも、なんで千ひろという名前を候補にあげていたのかと言うと、母が好きなドラマに関係しているらしい。
そこに「千ひろちゃん」という心優しい子が出ていたそうで、その子のように他人を思いやれるような優しい子に育って欲しかったからだと言っていた。
しかも、母は私の名前候補として「千ひろ」しか考えていなかったらしい。
男か女かも分からないのによくそんな賭けができたものだ。
(母は私が産まれてくるまでの楽しみとして、医者から赤ん坊の性別を聞いていなかったそうだ)
(確かに男でも「ちひろ」という名前はいるにはいるが、圧倒的に女性の名前として使う方が私の世代には多かった)
「もし私が男だったら名前はどうしていたの、男でも千ひろにしていたの?」
そう聞いたこともあったが、母は毎回笑って
「絶対女の子が産まれると思っていたから大丈夫だと思ってた。男の子が産まれるなんて考えたこと無かった」
そう言うのである。
どこからそんな自信が湧いてくるのか分からないが、私も母親になればわかるのだろうか。
小学生の頃に自分の子供の出来たらどんな名前がいいか考える遊びがはやったこともあった。
所謂キラキラネームというものを考え出しては将来を夢みながら楽しんだものだった。
私が子供に名前を付けるとしたらどうするだろうか。
ずっとこの名前はいいと思っているのは「敬助(けいすけ)」。
人を敬う気持ちを忘れずに、全てのものに感謝出来る子に育って欲しい。
困っている人がいたら自ら助けられるような心優しい子に育って欲しい。
反対に自分が大変な時に助けの手を差し伸べてもらえるような人望のある子に……。
そんな思いが込められている。
私の周りには、母親がSM〇Pが好きで
「正広(まさひろ)」「拓哉(たくや)」と名付けられた兄弟もいる。
なんだかんだ言って名付けというものは親の好きなものを表す一つのもののようになっているのかもしれない。
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