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その純粋な頃に比べたら、千晶と佳澄の関係はとても汚れたものになってしまった。
佳澄は未だに千晶に対し恋愛感情を抱いている。
しかし千晶はそうではない。
いつか佳澄が言った『好きじゃなくても』という言葉が千晶の中にずっと響いていた。
セフレなんかのただ体を求める関係ではない。でも不倫でもない。いや、世間的には立派に不倫なのかもしれないがそうとは思いたくなかった。
夫が嫌でそのはけ口として他人との恋に逃げているわけではないし、佳澄と過ごす時間は心休まる時間なのだ。
昔を重ね、現実から逃避する2人だけの時間に名前なんて付けたくなかった。
千晶はバスタオルを床に落とし佳澄に抱きついた。
湯上りの火照った体がくっつき千晶の少し潤んだ瞳にドキッとする。
「どうしたんですか?」
こう尋ねるので精一杯だ。
「·····のぼせたわ」
佳澄が背中から手を回し千晶の体を支えた。
佳澄が千晶の動作のひとつひとつに動揺しているのは言うまでもない。
だがそれを知っていても尚、千晶は佳澄に近づくことを止められなかった。今彼女を失ったら自分が壊れてしまうことをどこかで気づいているからだ。
慕情とは違う、何かに救いを求める気持ちで千晶は佳澄と会っている。
もしこれを佳澄に言ったら、佳澄はきっと『それでもいい』と言うだろう。でもそうしたら佳澄が千晶に注ぐ愛情が濁ってしまう気がして、嫌だった。
「優しいのね、あなたは」
「千晶さんにだけ、ですよ」
自分を愛おしいとばかりに見つめる彼女の目を曇らせたくない。
だって、こんなに純粋な愛情を注がれたのは初めてだったから。
「もっとあなたを感じたいわ」
「これまた随分とキザな誘い文句ですね」
くすりと笑って千晶は佳澄の唇に自らキスをした。初めての千晶からのキスに戸惑う佳澄。
感傷的な時間は終わり、2人は甘い世界に身を投じた。
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