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再会
「ありがとうございました」
そう言ってお客様を見送る。
時計を見ると23時半を回っていた。
「佳澄ちゃん、グラス下げてくれる?」
「はい」
この席には先程まで50代ぐらいのいいスーツを着た男性と30代ぐらいの体のラインがハッキリとわかる露出度の高い服を着た女性が座っていた。2人の距離感、男性の女性に向ける舐め回すような視線·····
察するに女性は男性の愛人だろう。
店から出る際に男性は女性の腰に手を回していた。マスターから聞いたが、愛人相手だとそういったボディタッチが増えるそうだ。
この店で働きだしてからやってくる客を観察するのが佳澄の密かな楽しみになっていた。
グラスを洗い終え店内を見回す。
まだ23時半。この街の夜が深まるのはこれからだ。
ふとポケットの中の携帯が震えた。
見ると『そうた』という文字。佳澄は少し身を固くした。
「すいません、ちょっと出ます」
マスターにそう声をかけ外へ出る。
「もしもし」
『あ、佳澄?』
電話の向こうではそうたがいつもと変わらない声で返事をする。
「うん。どうしたの?」
そうたが言いたいことに予想はついていた。だが佳澄はそれに目を瞑り何も知らないフリをする。
『この前の話なんだけどさ』
やっぱり。
佳澄はBARの制服をぎゅっと握りしめた。
「うん」
『俺、佳澄のこと受け止められないかなって·····』
「··········」
わかっていた。この前、話をした時点で。
いや、それよりもっと前からそうたはきっと受け入れてくれないだろうということを佳澄はどこかで感じていた。
『佳澄のこと好きだ。でも·····その、これからのことに自信持てなくなって·····』
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