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シャワーを浴び体を洗いながら千晶は昨夜を思い返した。
数年前の私はまさかこんなことになるなんて思ってもみなかっただろう。
『好きじゃなくても、好きって言えます。愛してなくても、愛してるって言えます』
『だから』
『千晶さんのことも、抱けます』
佳澄の声を思い出すと自然と体が熱くなった。
千晶への愛で溢れた佳澄の愛の行為。
あんなにも興奮し、全てを委ねたのは初めてだったかもしれない。
浴室を出ると佳澄が洗濯してくれた衣服が綺麗にたたまれ千晶を待っていた。
それを着ると一気に現実に引き戻された。
帰らなくてはいけない。夫の元へ。子供たちの元へ。愛が溢れる幸せな場所へ。
「もう行くんですか?」
佳澄が言った。
よく寝ていないらしく、若干の疲労が見える。その姿が健気で愛おしいとさえ感じた。
「ええ」
鞄を受け取り玄関で振り返る。
寂しそうな表情を浮かべる佳澄。それを見て千晶は何かが苦しくなった。
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